高倉健について考える本
原節子の本を読んでおもしろかったので、その勢いでまたノンフィクションライターによるスター本を買った。森功著『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』は昨年8月に出た本だが、もう6刷だから売れているのだろう。
原節子ほどではないにしても、高倉健は謎が多い。お世話になった人でも葬式は出ないが、毎年命日に線香を送るとか、ヤクザと深い付き合いをしているとか、江利チエミとは愛し合いながら別れたとか。
この本を読めば、それらの謎はある程度までは解ける。「七つの顔」は簡単に言うと、1.ヤクザとの関係、2.先祖供養好き、3.モテモテ人生、4.チエミとの純愛、5.長島茂雄との仲、6.義理と人情、7.謎の養女で、それぞれに1章ずつが振られている。
筆者はひたすら関係者に会い、その言葉を引用する。まず、個人的に引っかかったのは、九州の故郷の先祖代々の菩提寺を大事にしていたこと。毎年お盆前になると、「小田剛一です、供養をお願いします」と電話がかかってきたという。「小田剛一」は高倉健の本名だ。
先祖は黒田藩お抱えの両替商で、菩提寺の正覚寺には父母の墓を高倉健が建てた。「高倉健は生まれ育った九州という郷里を愛してやまなかった。/「やっぱり僕ら、最後は九州ですけんね」/亡くなるまでそういい続けたという。先祖や家族に対する思いは、ひといちばい強い」
九州出身の私には「最後は九州ですけんね」というのが、身に染みてよくわかる。東京に30年以上暮らしているし、東京で特に九州の友人と会うわけでもない。だけど今は年に2、3度は実家に帰る。高倉健もそうだったのかと、妙に嬉しかった。
江利チエミとの離婚の経緯もヤクザとの関わりもおもしろいが、驚いたのは最後の章の「謎の養女」、小田貴の出現だ。高倉の骨は九州の菩提寺にない。それどころか、彼が鎌倉霊園に買って江利チエミとの水子を供養して自分も入るはずだった墓も死後に養女によって更地にされてしまった。
高倉の死は九州の親戚にもすぐには知らされなかった。密葬には東宝の社長、東映の会長、元警察庁長官、読売の顧問、降旗康男監督のみ呼ばれた。高倉プロの社員も家族も排除された。これらを仕切ったのが「謎の養女」で、亡くなる1年半前に養子縁組をしたという。
彼女は高倉の持っていた高級車数台やクルーザーなどを処分し、彼の家を更地にして「美術館を思わせるようなドーム型の瀟洒な屋根が印象的」な家を建てて自ら住んでいるという。
有名人の養女というのは怪しい人が多いが、ここまでの例は珍しいのではないか。九州の親戚が養女に会おうとしても、弁護士を通じてしか連絡ができないらしい。この本はそれなりに楽しんだが、最後にとんでもない話が出てきて、心底びっくりした。
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