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2018年4月 1日 (日)

『ラッキー』はちょっといい映画

別に傑作などと騒ぐつもりはないが、劇場で見た『ラッキー』は、ちょっといい映画だった。昨年91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントンが、90歳の孤独な男ラッキーを演じる。

特に何が起こるわけではない。朝起きてラジオを聞きながらコーヒーや牛乳を飲む。ヨガをやり、煙草を吸う。昼には食堂に出かけてクロスワード・パズルをやりながら、店員や客と話す。食料品店で牛乳を買って帰って、夜は酒場に出かける。

子供はおらず、結婚もしてない。常に1人で毒舌を吐く。酒場に来る友人(デヴィッド・リンチ!)は、飼っているリクガメが逃げたと騒ぐが、ラッキーは彼に付きまとう保険屋をいじめる。

最初はあまりに淡々としているのでどうなるかと思うが、中盤から見せ場もある。食料品店を営むラテン系女性の息子の誕生日パーティに招待されて、突然スペイン語で歌いだして喝采を浴びる。

あるいは食堂で元海兵隊だった男に会い、自分は海軍にいたと名乗って、フィリピンの戦線の話をする。その男は死ぬとわかっていながらすばらしい笑顔を浮かべた少女のことを話す。そして酒場に行って、「死んだら無だが、微笑むだけだ」と呟く。

食堂はStagecoach (=駅馬車)Saloon and Grillだし、時おり聞こえる西部劇風のハーモニカには『赤い河』の主題歌もある。食品店の息子の名前はフアンだが、ラッキーは「英語ならジョン・フォードのジョン」と言う。デヴィッド・リンチ演じる男がハワードなのは、ホークスのことか。

ラッキーを演じるハリー・ディーン・スタントンが冒頭に朝起きて体を拭くシーンで、そのやせ衰えた体に胸がつまる。ところがジーンズをはいてチェックシャツを着て、カウボーイハットをかぶると、一挙に西部劇の空気が周囲に流れる。

この俳優が亡くなった時に新聞などで『パリ・テキサス』(1984)の俳優として紹介されたが、それは監督のヴェンダースが長年西部劇に出た彼へのオマージュとして主演を頼んだ映画だ。だから本来なら西部劇が挙げられないといけないが、私自身もたぶん見ていない。

『パリ・テキサス』以前では『エイリアン』(79)とか、その後だとデヴィッド・リンチの『ストレート・ストーリー』(99)とかを思い出す。見終わって、もし私が長生きしたらこの映画のラッキーみたいに生きればいいのだと、ちょっとまじめに考えた。今日から4月。

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