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2018年4月 9日 (月)

「ニッポン・ノワール」を見る

最近、授業の準備もあって「フィルムノワール」をよく見る。この言葉はさまざまに解釈されているが、一応映画史的には1940年代から50年代にかけて探偵、ギャング、殺人などを扱ったアメリカ映画を指す。もちろん、世界各地さまざまな時代に同種のものがある。

さて日本のノワールというと、やはり日活無国籍アクションをまず思い浮かべるが、これは小林旭とか宍戸錠とかの和風西部劇のイメージか。今回シネマヴェーラ渋谷でやっている「ニッポン・ノワール」という特集は、本家の「フィルムノワール」に近いもっと地味なギャングもの、殺人ものが並んでいる。

友人の勧めもあって私が見たのは、鈴木英夫監督『悪の怪談』(1965年、東宝)と西村昭五郎監督『花を喰う蟲』(67年、日活)で、どちらも最後に女が生き延びる点が共通していた。

鈴木英夫監督はかつて学生が企画した映画祭で上映した『その場所に女ありて』(62)が抜群で、気になっていた。これは働く女性を描いた群像劇だったが、今回は強盗4人組と女1人の計画的犯罪を描く。完全犯罪のはずが、仲間割れが起きて破綻してゆくという設定はいかにもありがちだが、その展開が独特だ。

まず、彼らはプロの強盗ではなく、工事現場で働く素人たち。だから銃も刃物も使わず、殺人も内輪の殺し合いだけ。そのうえ、強盗自体はずいぶん簡単に成功し、サスペンスとしてはさほど成功していない。

その分、お金をいったん保管する変な不動産屋での4人と1人の会話や思惑の交錯を中心に映画は進む。まず主犯岩尾役の山崎努が抜群にいい。目鼻立ちがくっきりしているが、目が座っている感じで何を考えているのかわからない。その愛人ルミ子役が団令子だが、これまた無表情で時々「私は見ている」感じでアップで斜めから出てくる。

最初に破綻する運転手小西役の加藤大介は、人懐っこい小者ぶりを実に巧みに見せてくれる。社長の運転手で強盗でも運転役。社長の愛人を好きになり、お金が必要になって早めの分配を要求する。

彼に手をかけるのが、下山役の西村晃。彼は前科者という設定で強盗でもビルの宿直をハンマーで殴る。ある意味で一番の実行犯で、加藤大介の次には、団令子に魅了される若い熊谷(久保明)も西村が処分する。そして西村は山崎に殺される。

強盗も殺人もあまりにあっけない。それでもその濃厚な人間模様にグイグイ引っぱられる。暗闇に浮かぶ山崎や団の白い顔が強烈だ。現金を入れたジェラルミンケースに山崎の顔が浮かぶあたりまでは最高だが、それから団が山崎を殺して完全犯罪を目指すが失敗するという終盤はいささか作り過ぎかもしれない。

あくまで強盗や殺人といったアクションを抑えながら、人間同士の化かしあいの心理ドラマに持って行ったところがうまい。砂漠のような場所にある不動産屋の風情がいいし、上に上る階段やお金を隠す地下への階段も生きている。死んだ久保を載せた自動車を崖から落としたり、不動産屋を焼いたりといった金のかかるシーンも効果を増している。

『花を喰う蟲』については後日書く(かな)。『その場所に女ありて』もそうだが、こんな傑作がDVDになっていないとは東宝は何を考えているのだろうか。一言「売れません」と言われそうだが。

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