カンヌに出る日本映画について
先日、今年のカンヌの出品作が発表された。18本のコンペに是枝裕和監督『万引き家族』と濱口竜介監督『寝ても覚めても』の邦画2本が入ったのは、実はすごいこと。特に濱口監督は初カンヌでコンペだから大抜擢。もちろん「もれた」邦画もある。
もちろん国際映画祭は「もれた」映画については、誰も話さない。映画祭側はもちろん、製作側も。だから本当に落ちたのか間に合わなかったのかは、いつまでたってもわからない。
例えば、私が新聞社時代に製作に関わった侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『珈琲時光』(2004)は、前年の12月にできてカンヌのコンペに落ちたが、ベネチアのコンペに選ばれた。日本での公開は8月末だったが、もちろんカンヌに落ちたことはどこにも書いていないし、関係者以外は知らない。後でベネチアのディレクターだったマルコ・ミュラー氏が「カンヌが落としてラッキー!」と言ったとも聞いたが、これも内輪の話。
今年だと落ちたと思われるのは、河瀬直美監督の『Vision』。ジュリエット・ビノシュが主演で話題になっている。もう1本は深田晃司監督の『海を駆ける』で私は既に見たが(後日書く)、全篇インドネシアで撮られた意欲作だ。2本の共通点は日本人監督が日本で日本人だけで撮るという、従来のパターンではない「国際性」を持つこと。
日本映画に最も欠けている国際性があれば、なおのこと海外に出やすいと思いがちだが、少なくともカンヌはそうでない。カンヌの常連の黒沢清監督が全編をフランス人俳優を使ってフランスで撮影した『ダゲレオタイプの女』はカンヌにもベネチアにもコンペに落ちた(たぶん)。
あるいは去年は諏訪敦彦監督の『ライオンは今夜死ぬ』はジャン=ピエール・レオー主演の全編フランス撮影だが、カンヌとベネチアに落ちて(たぶん)、サン・セバスチャンのコンペに出た。
考えてみたら『珈琲時光』も台湾の侯監督が日本で撮った映画だった。つまり、ヨーロッパの映画祭、とりわけカンヌはアジア人に関しては、自国で撮るオーソドックスなものを求めている。おそらくは、そうでないと彼らのエキゾチズムは満足させられないのだろう。
最近のニュースで、ネットフリックスがコンペ以外で選ばれてもカンヌに出さないと宣言したことが話題になった。これはカンヌが、フランスの劇場公開が予定されない映画はコンペに選ばないと昨年宣言したことに対する反発だろう。
カンヌはその保守的な価値観にこだわって、自壊の道を歩み始めたのではないか。今回カンヌに出る是枝裕和監督の次回作には、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが出ると報道されているが、いっそのこと東京国際映画祭で最初に見せたらどうだろうか。
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