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2018年4月24日 (火)

『心と体と』の夢と現実

イルディコー・エニェディ監督の『心と体を』を劇場で見た。正確に言うと、公開前にある理由でDVDを借りて始めの10分ほど見ていたが、繊細な映像だったので全部を見るのは劇場にしようと思っていた。

確かに大きなスクリーンで見て正解だった。主人公たちの夢と現実が混じり合う感じは、劇場の中で見ないと伝わってこないから。

冒頭、鹿が出てくる。いくつも角が生えた鹿と角のない鹿がどうも見つめ合っているかのよう。この場面はその後も時々出てくる。物語はブダペスト郊外の食肉処理場を舞台に、代理で新しく来た女性検査官マーリアと上司のエンドレが近づいてゆく話。

マーリアは真面目て美人だが、とにかく杓子定規でみんなと仲良くなれない。エンドレは結婚して子供もいたが、今は離婚して一人暮らしで、あらゆる希望を失っている。いかにも不器用な2人が、同じ羊の夢を見たことがわかり、急接近する。

処理場の2階にあるエンドレの部屋から、従業員たちの姿が写る。マーリアはみんなと交わらない。食堂も話しかけられても冷たい。そんな空間を繊細なカメラがそっと伝える。周囲の小さな物音や声が響くなかで所在なく佇むアンドレ。

牛が機械的に殺されてゆく処理場という設定も効果的だ。生と死や動物と人間の境界があいまいになってゆく。ある犯罪の調査の中で偶然にマーリアと同じ夢を見ていることがわかったエンドレは、意を決して2人で隣り合わせで寝てみようと提案する。

それから先の行きつ戻りつが実に巧みだが、終盤にはショッキングなシーンも挟み込まれている。それでも最後の最後はなかなかのハッピーエンドで幸せな気持ちになれるので、ぜひ見て欲しい。

いわゆるオクテでどうしたら人を愛することがわからない女性が初めて好感を持つ男性と会って、少しずつ変わる様子を実に優しく描いた秀作だと思う。男性の方は私くらいの年の中年で人生を諦めた感じだが、こんな出会いもあるかもしれないと思うと少し元気も出たりして。

監督はかつて『私の20世紀』(89)が話題になったが、見ていなかった。私より6つも上の女性だが、声高な自己主張のない静かなフェミニズム映画だと思う。

追記(4/25):冒頭に出てくる鹿を羊と書いてしまい、配給の方から連絡が来て直しました。

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