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2018年5月19日 (土)

ホン・サンスにハマる(1)

昔、ホン・サンスの映画を見た時、全く乗れなかった。さえない日常や恋愛をだらだら描く映画に、エリック・ロメールまがいのインチキ監督が現れたと思ったものだ。ところが見ているうちにだんだんハマってくる。

最近は新作を必ず見るようになった。今回6月から7月にかけて公開されるのは4本で、それらが2015年から2017年の間に製作されたというからその多作ぶりに驚く。そのうえ、どれもよく似ている。やたらに酒を飲む男女が出てくるが、いい加減に見える宴会から人間の真実が立ち上がる。

6月9日公開の『それから』(2017)は、その4本のうちの最新作。彼が白黒で撮ったのはたぶん初めてだが、その新しい試みにふさわしく、これまでと少し違う語りだ。

まず、視点が2つ。これまでは主人公の中年男性(映画監督や大学教授が多い)か若い女性のどちらかに視点が絞られたのが、今回は出版社の社長と新人の女性社員の両方から見る。見ていても時々時制が混乱する。はたして社長の妄想か記憶喪失か、見ている側の問題かと不安にもなる。

まず、早朝に自宅を出て会社に行く中年の社長がいる。するとその男と抱き合う女が写る。よく見ると男の服が違うので過去の記憶か。会社に着くと、新人(キム・ミニ)がやってくる。時おり、恋人との会話も挟み込まれる。新人と恋人が一見似た感じなので戸惑う。

例によって社長は新人を昼食に誘う。昼食後、社長の夫人がやってきて、新人に対して浮気相手はあなたかと怒る。社長は誤解だと言って、終わった話として恋人のことを語る。夜になって、また新人と飲みに行くと、そこに恋人がやってくる。

次に新人が社長を訪ねて彼が取った文学賞を祝う。社長は彼女のことを覚えていない。見ている者も混乱してしまう。見終わって、ようやく全容がつかめた感じか。

例によって撮影は安易。ズームを多用し、左右のパンを使う。そのいいかげんとも言いたくなるカメラワークと出てくる人間たちのその場限りの言動が妙にマッチする。時々流れる同じクラシック音楽がだんだんしっくりしてくる。

文化人だがスケベな社長と、何を考えているのかわからないが妙にクールな若い女性の奇妙な出会いから、人間そのものが露呈する。最後に漱石の『それから』が出てくるが、よくよく考えてみたら、社長は漱石の『それから』の主人公か。実はホン・サンスは深い。

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コメント

ホン・サンスは詳しくはないが、『オー!スジョン』『次の朝は他人』あたりはモノクロが冴えた作品だった。ただ、画面にこだわってたふうでもなく、『浜辺の女』『プライベートはパリで』あたりから、素人よりもイージーでセオリー無視のスタイル、創造性を欠くプライベートな題材が益々顕著になってきて、それまでのエロス等こってりとした重さ・念押しも薄まった。それは迂回することなく世界と映画の本質を一気に掴まえる真の巨匠になったことでもあった。弱くだらしなく泣く男と強くもそれにいきり立ち錯乱する女、どれがなにが本当にあったことなのか。成瀬とブニュエルが溶け合った世界がいつしか現出している。今回の連続上映は映画祭で一本観ただけだが(傑作!)、逆にそれ以上見ないほうがいいのではとも思う。もっともらしさで包まれた他の作品が観れなくなる。

投稿: 瀬古誠治 | 2018年5月24日 (木) 09時56分

間違えました。『アバンチュールはパリで』です。

投稿: 瀬古誠治 | 2018年5月24日 (木) 10時03分

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