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2018年5月17日 (木)

『マルクス・エンゲルス』に考える

ラウル・ペック監督の『マルクス・エンゲルス』を劇場で見た。この監督の映画は見たことがなかったが、山形のドキュメンタリー映画祭で上映されてもうすぐ劇場公開される監督作『私はあなたのニグロではない』が好評だった。

もちろん見に行ったのは、この題名だから。原題はLe jeune Karl Marx=「若きカール・マルクス」だが、いずれにしてもあのマルクスの映画は見ておきたい。マルクスの本は『共産党宣言』しかきちんと読んでいないが、だからこそ見たい。

見ての感想は、「ためになりました」か。映画は1843年から48年までの5年間、マルクスとエンゲルの出会いから共同で『共産党宣言』を書くまでを描く。驚くべきは、舞台がドイツ、イギリス、フランス、ベルギーと目まぐるしく舞台が移り変わること。何と言葉もドイツ語、仏語、英語と混じり合う。

鉄道がどれだけ敷かれていたか知らないが、とにかく2人は動き回る。エンゲルスは父親が工場を所有しているマンチェスターに住み、アイルランド出身の労働者の女性と出会う。マルクスはベルリンの新聞に書くのに飽き足らず、貴族の娘イェニーとパリに住む。

この2人がパリで出会い、互いの論文を褒め合って意気投合して飲み明かす。2人はロンドンに拠点を置く「正義者連盟」に声をかけられて参加するが、次第にその同盟を自分たちが考える「共産主義者同盟」に変容させてゆく。

一番おもしろいのは、社会主義者ジョセフ・プルードンとのやり取りだろう。プルードンを演じるのは名優オリヴィエ・グルメで、若く血気盛んな2人をおもしろがりながら、うまく逃げる。彼の老練な演技に比べたら、マルクス役のアスグスト・ディールやエンゲルス役のシュテファン・コナルスケは勢いだけだが、その差も映画にふさわしいか。

そしてマルクスの妻イェニーを演じるヴィッキー・クリープスが光る。彼女はもうすぐ公開のポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』でも印象に残るいい演技を見せているが、ちょっと影のある感じが秀逸。

映画は2人が『共産党宣言』を出し、パリで2月革命が起きるところで終わる。この2人の若き日の戦いを巧みに描いてはいるが、全体として「説明」に終わった感じもある。きちんと史実を入れ過ぎて、それぞれの場面がブツブツ切れる感じがするからだろうか。

それにしても、ここで語られる労働者の実態とそれをめぐる言葉は十分に現代でも通用する。むしろ、今の方が「階級社会」は大きくなっている気がする。その意味でも教育的な映画だった。

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