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2018年5月15日 (火)

『ビューティフル・デイ』の渋い魅力

6月1日公開のリン・ラムジー監督『ビューティフル・デイ』を見た。この英国の女性監督は『少年は残酷な夢を見る』がかなりエキセントリックでおもしろかった。特にティルダ・スウィントンの妄想ぶりが印象に残っている。

今回はその役はホアキン・フェニックス。前作は精神病の息子や能天気な夫も大きな役割を果たしていたが、今回は彼が演じる行方不明者の捜索を引き受けるジョーがほぼ出ずっぱりで、映画の魅力のすべてが彼にかかっている。

冒頭から少年が父親にいじめられるシーンが出てくる。さらに、かつて海兵隊員として参加した戦争やFBI捜査官としてで経験した陰惨な現場も時々よぎる。いわばトラウマだらけの男が、行方不明者を探して危険な現場に突撃する。

とにかくジョーは強い。ハンマーを持って敵の頭をがんがん叩いてゆく。州の上院議員の娘ニーナの捜索を受けた時も、売春が行われているビルに突撃し、用心棒も客も叩きのめしてニーナを救出する。ところがニーナの様子がおかしい。それからおかしな事件が畳みかけるように起きてジョーは怒り心頭に発し、最後の突撃に向かう。

ほとんどホラーとも言えるくらい、ありえないような激しい暴力が続く。その最中にいるジョーの頭は過去の記憶や妄想に絶えず取りつかれている。すべてはジョーの頭の中で起こったことではないかとも思えてくる。唯一の救いは半分ぼけた母親で、ジョーは家に帰ると彼女と話をする。そして事件が起こり、彼女と共に湖に向かうシーンは限りなく美しい。

暴力とホラーと幻想を混ぜ合わせながらもある種のフィルムノワールのような雰囲気を漂わせ、繊細な映像と音楽で突き進む90分は悪くない。いずれにしてもホアキン・フェニックスの怪演ぶりは、去年のカンヌのコンペで男優賞を取っただけのことはある。カンヌでは脚本賞も取っているが、一度見ただけではよくわからない場面も多いので、少なくとも私が脚本の絶妙さを味わうには再度見る必要がありそうだ。

原題は"You Were Never Really Here"、つまり「あなたは一度もここにいなかった」だが、これはやはりすべてがジョーの妄想だったということだろうか。映画では何度も数を数えるシーンが出てくる。これも私には謎のままだった。

てっきり若い監督だと思っていたら、最近のインタビューの写真を見て驚いた。1969年生まれで、つまりこの混乱ぶりは相当の老練の業だった。

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