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2018年6月 5日 (火)

『私はあなたのニグロではない』の映像の強度

ラウル・ペック監督の『私はあなたのニグロではない』を劇場で見た。『マルクス・エンゲルス』を見て、それほど才能のある監督とは思わなかったが、ドキュメンタリーならいいかもしれない、と思った。あの生真面目さはドキュメンタリーに向いているはず。

結果は当たり。とにかく作家・ジェームズ・ボールドウィンの語る場面がいい。ギョロ目で口が大きく、特には怒り、時にはユーモアを交えて表情豊かに語る。

テレビ番組ででイェール大学の白人の教授が言う。「私は黒人の学者を無学の白人より身近に感じる。君も白人の作家と共通点が多いはず。なぜ肌の色にこだわる?」

これに対して、ボールドウィンは目に涙をためて言う。「1948年にアメリカを去った理由はたった1つでした。行き先は香港でもどこでもよかった。パリに着いた時所持金は40ドルだけ。だが、アメリカにいるより安全だった。作家活動をするにしてもアメリカでは常に警戒が必要だ。うっかり気を抜けば殺される可能性がある」

確かに今でもアメリカの警官が無罪の黒人を殺した事件はよく聞く。この映画では3人の黒人活動家の暗殺がじっくりと取り上げられる。メドガー・エヴァースとマルコムXとマーティン・ルーサー・キング牧師はそれぞれ63年、65年、68年に殺された。

彼らが話す映像も豊富で迫力満点。とりわけ非暴力主義でキリスト教徒のキング牧師の穏やかな表情と、イスラム教徒で直接的な言葉で相手を懲らしめるマルコムXの鋭い視線の対比がおもしろい。マルコムXは痩せていて、いつも相手を睨んでいる。「黒人はこの国で400年も白人に虐待されてきた。なのに無知な黒人牧師は「もう一方の頬も差し出せ」と教えている」

スパイク・リーが監督した『マルコムX』という映画があったが、私の記憶だとこの実物の方がずっと尖っているように思う。ナレーションはマルコムXとキング牧師がだんだん近づいたと語る。「2人が死ぬ頃には彼らの立ち位置はほぼ同じになった」

最後にボールドウィンは話す。「白人は自分自身に問わなければならない。なぜ‟ニガー”が必要だったのか?私をニガーだと思う人はニガーが必要な人だ」「私はニガーではない。白人がニガーを生み出したのです。何のために? それを問えば未来があります」

ボールドウィンと殺された3人の姿と言葉が印象に残る。時々現在の光景を交えたり、正面を向く黒人を何人も写したりとムード的なショットもあるが、この傑出した4人の映像をうまくまとめて並々ならぬ強度を作り出している。

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