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2018年7月31日 (火)

『レディ・バード』の快さ

グレタ・ガーウック監督の『レディ・バード』をようやく劇場で見た。ここに書いたように2週間ほど前にこの映画を見に行ったが、間違えて別の映画を見た。もう縁がないかと思ったが、ぎりぎりで間に合った。

これがグレタ・ガーウィックの監督デビュー作だが、彼女は『フランシス・ハ』で脚本兼主演を務めている。その彼女の自意識過剰な感じが苦手だと思った。ところが監督作では、ずいぶんスマートで繊細な青春ドラマを作り上げた。ソフィア・コッポラやジム・ジャームッシュを思い出したくらい。

高校最後の年、カリフォルニアの小さな街・サクラメントに住むクリスティン(シャーシャ・ローナン)は、地元の大学に進学して欲しい母親と対立する。通う高校は実にダサいカトリック系で、彼女はことごとく逆らう。最初にできた恋人ダニーとはキスまで行くがささいなことで別れ、次のカイラとは関係を持つが彼女が「たぶん6人目」と聞いて怒る。

クリスティンは、田舎町で都会を夢見る、ある意味で素直な女の子。映画はその彼女の日常の悲喜劇を淡々と追う。見ていて驚くくらい展開が早いが、それがなぜか快い。まるで「すべては過ぎ行く」という感じ。

母との愛憎劇もうまい。父親はニューヨークの大学へ行くのを認めるが、母親は最後まで知らされず、見送りの空港では怒って先に帰ろうとする。それでもクリスティンは、ニューヨークに着いてから母親が彼女のために準備したあることを知る。

こんな繊細で気の利いた小品がアカデミー賞の作品賞など5部門にノミネートされたなんて、ちょっと驚きだ。アメリカの映画業界人たちがこの種の映画が好きだとはとても思えないから。

映画を見ていて、サクラメント空港に見覚えがあった。20年ほど前、ロスで小さな飛行機に乗り換えてこの空港に着き、車で迎えに来てくれたアラン・ルノワール夫妻の住む小さな村に行った。彼はジャン・ルノワール監督の息子で、ルノワール全作品上映のカタログのためにインタビューをした。

その時の快い思い出が、この映画の爽やかな感覚と重なった。その意味でも、見てよかった。

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