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2018年7月13日 (金)

ゾウが出ずっぱりの映画『ポップ・アイ』

8月18日公開のシンガポール・タイ合作『ポップ・アイ』を見た。昨年の東京国際映画祭で話題になった作品で、女性監督カーステン・タンの第一回長編という。サンダンスやロッテルダムでも賞を取っているので試写を見に行った。

最近、タイやフィリピン、インドネシアなど中国(語圏)・韓国以外のアジア映画も抜群におもしろくなった。これはシンガポールの監督がタイで撮影したもの。冒頭、中年男が大きなゾウを引っ張って歩いている。トラックが通ると乗せてもらおうとするが、うまくいかない。

この男タナーが、実はかつて有名建築家だったことがだんだん明らかになる。今や会社では若手に追い出されそうだ。豪勢な自宅でも、妻には相手にされない。道で偶然に見たゾウが小さい頃に飼っていたポパイだとわかり、お金を払って家に連れ帰るが、妻はあきれる。

タナーはバンコクの都会から、叔父の住む故郷に向かう。その過程でさまざまな人に出会う。間抜けだが優しい警察コンビやかつての楽しかった夫婦生活を語るホームレス、そして盛りを過ぎたニュー・ハーフなど。

ようやくたどり着いた故郷で、叔父は若い女性との間に8歳の息子を作って優雅に暮らしていた。そしてポパイについて衝撃の発言をする。

犬や猫はともかく、ほぼ全編ゾウが出ずっぱりの映画は始めて見た。最初の方でタナーが歌うとゾウが泣いて反応したり、疲れたタナーを乗せて田舎道を歩いたり。ゾウにも人間の心が通じる様子が見てとれて、だんだんほっこりした気分になってゆく。

考えてみたら、極めて都会的な設定だ。若い頃にバンコクで活躍した男が中年になって感じる悲哀。会社にも妻にの相手にされず、ゾウに再会して故郷に向かう。その過程で出会う社会の底辺で生きる人々。そして故郷は変容していた。

欧米でも日本でもありそうな話だが、そこに「ゾウ」というエキゾチックなシンボルを加えたところにこの作品のうまさがある。中年男がゾウと故郷に向けて歩く500キロの旅というだけで、中年男の私は「見たい」気分になる。

途中で出会う人々のエピソードなどもうまい。展開はスムーズではないし、少し無理もあるが、何より題材の選択で勝利した映画だと思う。シンガポールの女性の若手が、第一回長編を作るためにこれほど作戦を練った事実に驚く。夏休み代わりに息抜きに見るのにピッタリの映画。

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