『ルーム・ロンダリング』の微妙さ
ちょうど池袋で空いた時間にぴったりだったので、片桐健滋監督の『ルームロンダリング』を見た。実は題名を聞いて、原田ひ香の小説『東京ロンダリング』の映画化だろうと勘違いしていた。この小説はかなり印象に残っていた。
映画が始まってすぐに、これは違う、と気がついた。主人公の女性が自殺者などが出た事故物件のアパートにしばらく住んで、次の住居者に事故の報告義務をなくすという仕事=ルームロンダリングという設定は同じだが、展開は全く違う。
映画が終わってクレジットを見たら、全くのオリジナル企画だった。確かにその部屋で死んだ幽霊と話をするという展開は映画向き。主人公の御子(みこ=池田エライザ)は、若くして両親と別れ、不動産屋の叔父(オダギリジョー)のツテで事故物件に住むことを仕事にしている。
彼女は小さい頃に母親にもらったアヒルのランプを持ち歩く不思議系少女。引きこもりがちで、「隣人と交渉を持ってはいけない」というロンダリングの掟にぴったり。部屋の中で一人で絵を描き、コンビニに食べ物を買いに行く毎日。
そこに現れるのが、最初に住む部屋で自殺した男(渋川清彦)や次に住む部屋でストーカー男に殺されたOL(光宗薫)の幽霊。御子は何とその幽霊が見えるという特技があった。さらに御子に心を寄せるドジなコンビニ店員(伊藤健太郎)や叔父と組むへんな男(田口トモロヲ)などがドラマを繰り広げる。
いわば不思議ちゃんの繰り広げるファンタジーで、これが実に丁寧に撮影されて作り込まれている。だけど、池田エライザもオダギリジョーも同じ調子で飽きてくるし、全体に同じネタが繰り返されて微妙に盛り上がらない。そのなかで、渋川清彦がロック歌手志望で自殺した男の悲喜劇を巧みに演じて一番の存在感を見せた。
叔父役のオダギリジョーにはもっと派手に活躍してほしかったし、両親の死後、御子を育てる祖母役の渡辺エリも出番が少なすぎた。幼い頃の母との映像も紋切り型すぎる。この監督は演出力はなかなかなので、別の脚本家による新作に期待したい。
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