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2018年7月14日 (土)

ヤン・ヨンヒの『朝鮮大学校物語』の爽やかさと苦さ

またまた「朝鮮半島」のお勉強で、ヤン・ヨンヒの小説『朝鮮大学校物語』を読んだ。今年の3月に出た本だが、この筆者はこれまでドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』や劇映画『かぞくのくに』を監督し、北朝鮮籍の自分の物語を語ってきた。

それらの映画に比べたら、この小説は爽やかな印象を残す。全体が4つの章に分かれて、1983年から1年ずつ、大学生の1学年のある季節の数日間を描く。そしてプロローグとエピローグに現在の瞬間を記す。

基本的に30年以上前の話だから、懐かしく振り返るノスタルジックな調子がどこかにあって、かなり悲惨な内容でも楽しく読める。この小説では主人公は現在は演劇の脚本家になっている。実際は映画監督なのだろうが、いずれにしても成功した現在の自分が、朝鮮大学校を振り返る。

第一章は、「来る場所、間違ったかな」で始まる。大阪から東京の朝鮮大学校=朝大に入学したキム・ミヨンが最初に発した言葉だ。「ミヨンは演劇と映画にしか興味がなかった。朝鮮大学校に来た最大の目的は、東京で四年間思う存分芝居を見て、卒業後に入る劇団を決めるためであった」

ミヨンが「ぴあ」を「最愛の雑誌」としていつも持ち歩いていたのに笑ってしまった。私も1986年に東京に来て以来、就職後も長い間いつも「ぴあ」を持ち歩いていたから。ネットもスマホもなかった時代の話。

とにかく、この「朝大」の管理体制はすごい。全寮制で、平日は朝6時45分起床で、授業は夕方4時まで。6時まで外出可能。授業は制服、つまり女子はチマ・チョゴリ。化粧、ジーンズは休日も禁止。

ミヨンは最初から規則を破る。そして先生に言われる。「ここは日本ではありません!朝鮮大学校で生活している貴女は、共和国で、すなわち朝鮮民主主義人民共和国で生きているのだと自覚しなさい!」

それでもミヨンは演劇を見に行き、近くのラーメン屋で知り合った武蔵野美大生と恋に落ちる。その噂が広がって猛烈な非難を浴びるが、まったく気にしない。そのまま4年間を貫き通し、卒業式である行為に出る。

「ミヨンがんばれ」と思いながらスイスイ読むが、泣けるのは3年生の時に、帰国事業で北朝鮮に渡った姉に会いに行く場面。姉夫妻は地方に飛ばされ不遇な日々を送っているが、ミヨンは賄賂を使って遮二無二会いに行く。姉は言う。

「アンタは私の分身やから、私の分も幸せになってくれな困るの!組織や家族のためとかアホなこと言うたら私が許さへん。後悔せんように。わかった?朝鮮で生きるのもキツいけど、この運命背負わされて日本で生きるのも大変やと思うわ」

2、3時間で読める軽い読み物で小説として特に高く評価しようとは思わないが、ここには筆者とほぼ同世代の私が全く知らなかった世界がある。


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