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2018年8月 4日 (土)

暗澹たる読書:その(6)『和解のために』

最近の「韓国学習」の一環として、朴裕河(パク・ヨハ)著『和解のために』を読んだが、暗澹たる気持ちになったので、少し前のシリーズに加える。2005年に出た韓国語版に続いて2006年に日本語版が出た時、大きな話題になったのを記憶している。

副題は「教科書・慰安婦・靖国・独島」で、何となく内容の予想がつく感じなので、読んでいなかった。今回読んでみるとが、日韓に横たわる問題の大きさに嘆息した。

2006年の本なので、少しタイムラグがある。例えば「教科書」問題は今ではあまり語られない。日本で「新しい歴史教科書をつくる会」(いわゆる「つくる会」)が活発だったのは、90年代から2000年初頭。

この本では、長い間日本では「戦後民主主義」を守るべく日本人が努力を重ね「愛国心」という言葉さえ危険視されたこと、「つくる会」は90年代に慰安婦問題が出てきてこの事実が高校教科書に記載され始めてからその動きを活発化したこと、日本政府は「つくる会」に距離を置いていることなどが、韓国では知られていないとする。

もちろん日本の悪い点も列挙する。慰安婦についても、靖国についても、独島(=竹島)についても同様で、多くはそれぞれの国内の左派右派の対立で、もう少し相手の国の事情を理解すれば誤解は起きないことを説く。

私が一番困ったのは、竹島の問題。日韓双方の主張を細かく読めば読むほど、どちらも正しく見える。この本ではそもそも19世紀後半には、近くの韓国領の鬱陵島にも多くの日本人が住んでいた事実を書き、無人の直径百メートルに満たない竹島は日韓の「平和の島」として共同管理にしたらいいと提案する。

筆者は最後の第5章で「現在の韓日関係が、日本の帝国主義(植民地支配)の結果だけでなく冷戦時代の安全保障をめぐる東西対立の遺産であることを明らかにしてくれる」と書く。つまりはアメリカの都合で植民地支配の責任をあいまいにした65年の日韓基本条約が結ばれ、個人に行くはずの日本の補償金が製鉄所や道路などの産業に使われたことを示す。

筆者は韓国語版では韓国の批判部分を増やし、日本語版では日本に対する批判を増やしたと書いている。解説で上野千鶴子さんが「あえて火中の栗を拾う」と書いているように、驚異的な勇気の持ち主だろう。筆者は次の著書『帝国の慰安婦』でを2013年に韓国語版を出し、翌年日本版が出ているが、彼女は元慰安婦たちに告訴されたはず。

やはり『帝国の慰安婦』も読まねばならないが、この暑さもあって何とも気が重い。

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