『脱出』のローレン・バコール
ディズニーを除くあらゆるハリウッドのメジャー会社において、ほぼすべてのジャンルで傑作を作ったハワード・ホークス監督にとって、『脱出』(1944)はとりたてて傑作とは言えないだろう。私も1999年に全作品上映を企画した時は、この映画にはさして惹かれなかった記憶がある。
今回20年近くたってDVDで見直すと、主演のローレン・バコールの存在感に驚いた。演技がうまいというよりは、妙に不器用で艶めかしい。調べてみると、これはモデルだったバコールの映画初主演作だった。
確かに同じホークス監督でハンフリー・ボガードと共演している『3つ数えろ』(46)に比べたら、まだ自分の演技を決めかねている感じだ。撮影当時18歳というが、可愛らしさとクールさの間で揺れているように見える。
最初にボガード演じるスティーブがホテルの自分の部屋に入るとなぜか若い女がいて、「マッチある?」と聞く。投げられたマッチで煙草に火を付けると投げ返し、笑いながら出てゆく。
何度かキスの場面があるが、最初はバコールから始める。ボガードは乗り気ではないがまんざらでもない顔がうまい。そして途中からは両者ともに熱烈にキスをする。
最後に船に乗るために2人と友人のエディがホテルを出てゆくシーンがいい。バコールはピアニストに声をかけられて、何とも嬉しそうにお尻を振りながらボガートの待つ入口に向かう。
途中でボガードがフランス人の反ナチ運動家を船に乗せる場面がある。なぜかその運動家は超美人の夫人同伴。それを見たバコールがいつも覗いて心配そうな顔を見せる。映画の本筋とあまり関係のないシーンだが、バコールの嫉妬する様子がおかしい。
実際に、この映画の撮影中にバコールとボガードは恋に落ちて数年後に結婚するのたが、この映画を今見ると、この2人がだんだん仲良くなるのを実際に見るようだ。
バコールは出てくるたびに服が変わる。たぶん5種類くらい。いずれも細身を強調しながらも、胸のあたりのふくらみが感じられる。後半に、へそや背中の出た黒いドレスを勝負服のように来て現れた時はびっくりした。また彼女が歌を歌うシーンがあるのも珍しい。あまりうまくないのがリアル。いわばバコールがバコールになる過程を見せた映画だ。
1999年のホークスの映画祭の時に、彼女を日本に招待しようとしたことがある。ジャン・ルノワールの映画祭でフランソワーズ・アルヌールが来てくれたので調子に乗って手紙を書いてみた。すぐにエージェントからファックスが来て「その時期は地方で舞台公演中のため、日本には行けません」。その彼女も数年前に亡くなってしまった。と、またノスタルジアになる。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)
- 1年ぶりの海外で考えたこと:その(5)飛行機の映画(2026.10.03)


コメント
確かにあの頃の朝日=FCの催しは、カイエ・デュ・シネマ等海外の評価をそのまま持って来ていた様な印象がある。多くの日本人映画ファンが愛してきたのは、本当にふたりのR or Hだったかと思ったことがある。デュヴィヴィエ、ワイラー(この人のケースは今でも興業とバッティングするかもわからないが)・フォルストらを取り上げても良かったのでは、と。じっさい今の眼で観ても、1930年代中期からDの流麗さやペシミズム云々ではなく基本のリアリズム描写はRに遜色なかったし、Wの場面とドラマの重力は、Hのセッションの自由闊達さと肩を並べる魅惑を持つ時もあった、と思う。
投稿: 瀬古誠治 | 2018年8月14日 (火) 09時24分