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2018年9月25日 (火)

最近の読書から:『消滅世界』と『地図のない旅』

病院を退院する前後に読んだのが、村田沙耶香の『消滅世界』。この小説家は、この後に『コンビニ人間』で芥川賞を取るが、『コンビニ人間』は抜群におもしろかった。その世界は、コンビニでバイトをしたことのない私にもリアルに迫ってきた。

さて『消滅世界』は、「セックスではなく人工授精で、子供を生むことが定着した世界」と文庫の裏表紙に書かれていて、興味を持った。いかにもありそうな近未来だ。ところが読んでみると前半はおもしろかったが、後半は失速してしまう。読後一か月ほどたった今となっては、終わりもよく覚えていないくらい。

夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視される世界で、両親が愛し合って生まれた雨音(あまね)は、母親を嫌悪していた。彼女はアニメの主人公に恋をするが、ある時中学の同級生の水内くんと関係を持ってしまう。それは母の呪縛だった。

その後もアニメの主人公と自慰を繰り返しながら、25歳で結婚をする。ところがある時夫が体を求めてきたため、離婚してしまう。次に結婚したのはそういうことのなさそうな雨宮朔。それぞれに恋人を持ちながら、仲良く暮らす。しかし雨音は同じマンションに住む水人に恋をしてしまい、関係を持つ。

そのあたりまではよかったが、その後雨音は夫と共に千葉にある実験都市に行くところから、わからなくなった。そこは、生まれた子供をすべて「子供ちゃん」として共同で育てる世界だった。彼女は子供を作ってそこに預けるが、夫も「人工子宮」を使って妊娠する。

母の影響で「人工授精」を強いる世界にあらがっていた雨音が、進んでその先の世界に身を投じてさらに苦しむという展開についていけなくなった。

もっと地に足が着いたものを読みたいと思って、ベネチアに行く飛行機で読んだのが須賀敦子の『地図のない旅』というエッセー集。これは雑誌の連載エッセーを彼女の死後まとめたものだが、単行本にするための手直しがなされていない分、ゴツゴツと荒削りの感じが残っている。

本は「地図のない旅」と「ザッテレの河岸で」に分かれているが、後者は新潮社の「とんぼの本」『ヴェネツィア案内』に寄稿されたもの。そこにあった病院をめぐる文章に私は息を飲んだ。

「ヨーロッパの国々、とくにフランスやイタリアでは、《病院は死にに行くところ》、《病院に入れられたら、もうおしまい》という考え方が、船底にこびりつく頑固なフジツボみたいに、人びと、ことに貧しい階級の人たちのあいだに根強くはびこっている」

前にここに書いたベネチアの「オスビダーレ」は、まさにそんな感じだった。この本を入院中に読まなくてよかった。


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