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2018年9月 8日 (土)

最古参になってしまったベネチア映画祭:その(8)

『善き人のためのソナタ』で有名なフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督のWerk ohne Autor「作家なき作品」は、ナチス時代から1960年代までのドイツを一人の画家の目から描く。188分と長いが、出てくる人物の描き方が巧みで全く退屈しない。

出だしは、1937年に始まった「退廃芸術展」を訪れた若い娘エリザベスとその甥クルト。二人とも心を動かされる。エリザベスはその後奇行によって精神病院に入れられるが、クルトは彼女の思い出を持ち続け、戦後は画家を目指す。

一方ジーバンド教授は有名な医者で、ナチス時代に精神病患者を隔離して殺す役割を果たす。戦後はソ連の将校の妻の妊娠を助けたことで生き延びるが、クルトが美術大学で好きになったのは彼の娘エリザベスだった。ジーバンド夫妻は逮捕を逃れて西ドイツに逃げ、結婚したクルトとエリザベスも数年後に東ベルリンから西ベルリンに渡る。クルトはジュッセルドルフの美術アカデミーに入り、才覚を見せ始める。

歴史の荒波に揉まれながら必死で生き延びる人々を、艶やかな映像と音楽でじっくりと見せる秀作だった。ジュッセルドルフのいつも帽子をかぶった教授は、フェルトと脂肪のエピソードも含めてヨゼフ・ボイスそのものだし、クルトの写真を使った作品はその弟子のゲルハルト・リヒターにそっくり。「退廃芸術展」も含めて美術好きの私はおおいに楽しんだ。

メキシコの鬼才、カルロス・レイガダスのNuestro Tiemp「私たちの時代」は、メキシコの田舎で牛を育てながら暮らす家族を描く。夫のフアンは詩人でもあり、牛を育てる。妻のエステルは牧場全体を仕切っているが、アメリカから来たフィルと仲良くなる。

監督本人が演じるフアンの嫉妬がテーマだが、妻に浮気をそそのかしたり、浮気現場を覗いたり部屋に踏み込んだりと尋常ではない。さらに別の男まで妻と関係を持つ。

こちらも173分と長尺だが、とにかく一切の説明がないので途中までは何の話かわからない。そして耳障りの音が不可思議な映像と絡みだす。コンサートの音楽、牛同士の殺しあい、セックス中のベッドの振動、息をする音、あらゆる音が刺激的でざわざわと響く。こちらは一般向きではないが、相当に見ごたえがあった。

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