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2018年9月22日 (土)

最近の読書から:『巡査長 真光寺弘道』

ベネチアに行き帰りに読んだのが、榎本憲男さんの『巡査長 真光寺弘道』。榎本さんは映画業界の人だった。劇場の支配人をやったり、宣伝をやったり、製作をしたり、脚本を書いたしていた。

フリーになった後は、映画の監督まで始めた。そしてその1本『見えないほど遠くの空を』は小説にもなった。次の小説『エアー2.0』はれっきとしたサスペンスもので、その未来的な展開がおもしろかった。新国立競技場の工事現場を舞台に、テロリストの要求に応じて競馬の八百長をして配当金を回収に行く男の話で、するすると読めた。

しかし同時によくわからなかった。「完璧な市場予測システム」の機械があるとは思えないが、新国立競技場や東北大震災の話が妙にリアルで惹かれた。

今度は警察ものである。真光寺弘道という50過ぎに冴えない平刑事という設定は、いかにもありそうな刑事もの。ところがこの刑事は天才ハッカーと知り合い、急死した衆議院議員の謎を解いてゆく。

議員がデリヘルの女を呼んだ後に死んだことがわかるあたりまでも常道だし、死因はコンドームに塗られた猛毒で、実は政界や官僚を巻き込んだ殺人事件だったというのもよくある。普通の刑事小説と違うのは、真光寺刑事の設定だ。

彼は大学時代から音楽オタクで、天才ハッカーの黒田と会うのは秋葉原にステレオの真空管を買いに行った時。二人はロックやステレオのマニアックな話で盛り上がり、真光寺のその後の事件解明はほとんど黒田の協力による。ほとんどホモセクシュアルさえ感じさせる2人の協力がヘンだが、最後に黒田の正体がわかって、物語はもう1度回転する。

するする読めるのは前作と同じだし、ハッカーという現代的な要素を意識的に取り入れているあたりも前作を思わせる。なのにどこか読んだ感じがどこかゴツゴツしていて、趣味的な感じが溢れている。

榎本さんは、フェイスブックでその続編がちょうど昨日刊行と書いていた。確かにこの本は最後に新しい展開が出てきて、続編を思わせる書きぶりになっている。それにしても突然流行作家になってしまうとはすごい。

榎本さんはいわゆる「セゾン系」。西武セゾングループが作った映画会社シネセゾン系列の映画館にいた。「セゾン系」だとキネティックという映画会社を作った塚田誠人さんは、荒井曜という名前で小説を書いている。1980年代にセゾン系にいた人は才気煥発だ。

実は私も1985年夏に1年間のフランス滞在から帰国した直後に、「シネセゾンに行きたい」と西武百貨店を受けて内定をもらった。結局行かないで大学院に行ったが、行っていたらどうなっていただろうか。

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