『止められるか、俺たちを』にがっかり
今年期待度に比してたぶん一番がっかりしたのが、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』だった。白石監督は『凶悪』など大好きだし、彼が師匠の若松孝二を中心にした映画を撮ると聞いて、血沸き肉躍った。そのうえ、足立正生や大島渚などの役も出てくるというではないか。
私は若松孝二にも大島渚にも会って話したことがある。そのほか荒井晴彦や足立正生も会ったし、赤塚不二夫、高間賢治、松田政男は見たことがある。小水一男(ガイラ)、沖島勲、大和屋竺、葛井欣士郎だって名前くらいは知っている。若松孝二の映画自体も大学生の時から見ていた。
つまり、50代後半にしては、あの世代に思い入れがある方だと思っている。だからなのかもしれないが、最初から「違う、違う」と思いながら見た。一番は何より、井浦新の若松孝二がギャグにしか見えなかったことだろう。
井浦は若松の映画に2本出ているから、話し方や癖を知っているはず。それが見ていると漫才の物まねのように見えてしまった。動作やしゃべり方、それ以上に発想自体が本物そっくりだったが、それがなぜか生身の人間には見えなかった。それは高岡蒼佑演じる大島渚も同じ。2人とも本物の「迫力」や「毒気」が抜けてしまっていた。
映画は、1969年に21歳で若松プロに助監督として入った吉積めぐみ(門脇麦)の目を通して、若松プロの日々が3年近く描かれる。吉積が少しづつ現場に慣れて、だんだん頭角を現してくる感じはよく撮れていると思う。撮影の高間賢治と仲良くなるあたりも悪くない。
そして足立正生役の山本浩司や「オバケ」役のタモト清嵐やガイラ役の毎熊克哉もみんないい味を出している。事務所でくだらない話をしたり、酒を飲んだりする場面も時代の雰囲気があの一杯だ。ところが真ん中にいる井浦の若松が、どうも違う。
それでも、酒を飲まれないように若松が冷蔵庫に鍵をかけているシーンとか、吉積が試写会に来た荒井晴彦を脅すシーンとか、『赤軍-PFLP/世界戦争宣言』の上映のための赤いバスを作る場面とか、実におかしいシーンは多かった。だから結局は見て十分に楽しんだが、やはりがっかりした。つまりは期待しすぎたのだろうか。
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