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2018年12月23日 (日)

『フェルメール 最後の真実』にない真実

秦新二、成田睦子著の『フェルメールの真実』を読んだ。秦氏は美術業界では「知る人ぞ知る」存在だ。オランダ美術界に強力な人脈を持ち、今世紀になってからの何度かのフェルメール展を(たぶん)すべて支えた人だ。

かつては「ハタ・インターナショナル」という企画会社の社長で、私の記憶だと一時期は「ハタ・インチキナショナル」などとと言われていたこともある。今は在オランダの財団ハタステフティングの理事長ということになっている。

彼がこの10月に出したのがこの本で、まさに今回のフェルメール展に向けての出版。ハタステフティング事務局長の成田氏との共著の形を取っているが、「私は」という書き方からも秦氏の話である。

ここで何度か書いたように、私は昔新聞社で展覧会を中心としたイベントの企画をやっていたので、彼の書いていることは手に取るようにわかる。海外の美術館に近づいて館長や学芸員と仲良くなり、資金的な援助をしながら日本に作品を借りる仕事だ。

私との違いは、彼は新聞社やテレビの社員ではなく、いわゆる「企画会社」の代表であること。かつては展覧会の企画会社が数社あった。彼らは海外から作品を借用する美術展の企画を立てて、新聞社やテレビ局に持ち込み、資金的に支えてもらいながら開催する美術館を一緒に探す。

最近は新聞社やテレビの事業部の社員自体が直接海外の美術館と交渉するようになり、国内の美術館も自ら企画を立てるケースも増えて、多くの企画会社は潰れてしまった。その中で「フェルメール」という金脈を見つけて、維持し続けているのが秦氏である。

この本にはオランダや米国を始めとした一流美術館のフェルメールの専門家にいかに自分が食い込んでいったか、いかに今では仲がいいかが書かれている。確かにこれだけの食い込みは異動のある新聞社の社員や海外に簡単には行けない美術館学芸員には無理だろう。

しかし書いていないことがある。一番はどこの誰にどれだけお金を使ったかである。「国公立の美術館の場合、サポートしてもお金は国庫に入るので、直接的な援助にならない場合が多い。そこで、あの手この手、さまざまな形態でその館が必要としているサポートを提供することが必要になる」

これだけで「あの手この手」は書いていない。あるドイツの美術館に「図録の出版や作品の修復など、あらゆる面から支えたのである。日本で考える以上にヨーロッパではこのような活動が重視される」とは書いているが。

もう一つ書いていないのは、日本の美術館学芸員や新聞社・テレビの事業部員のことである。彼らなしでは日本でフェルメール展はできない。その部分はほぼ省略して(一か所だけ産経新聞社員への謝辞がある)、自分の手柄としてこの本は書かれているから、この本は「真実」からは遠い。

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