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2018年12月26日 (水)

『プティ・カンカン』に戦慄

久しぶりに映画に戦慄を覚えた。「カイエ・デュ・シネマが選ぶ フランス映画の現在」で上映されたブリュノ・デュモン監督の『プティ・カンカン』(2014)のことで、フランスで4年前にかなり話題になっていたが、今回初めて見た。

これを見ると、その後に作った『マ・ルート』(16、未)と『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期』(17、未)は、この成功をもとにさらに冒険した映画だとよくわかる。『マ・ルート』は時代を20世紀前半に設定し、ジュリエット・ビノッシュ、ファブリス・ルキーニ、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキらのスターを金持ち役で投入したがうまくいかなかった。

『ジャネット』は何と15世紀だが、こちらはミュージカルという特殊な形式を取ったこともあって、かなり成功していたと思う。ただ、『プティ・カンカン』の現代フランスの寒村の根源的な恐ろしさには遠く及ばない。

舞台は例によって北フランスの海辺で、夏でも寒々としているほど何もない。そこで死んだ牛の体内からバラバラの人体が見つかったことで、2人の憲兵が投入される。その様子を見て、自分たちも動き出すプティ・カンカンを中心とした3人の少年と1人の少女。

まず、憲兵が抜群だ。ヴァイダン隊長はまるで刑事コロンボみたいだが、むしろ往年の怪優、ミシェル・シモンを思わせる体の動きだ。部下のカルパンティエはのっぽで間が抜けていていいコンビ。

牛の死体から出て来たのはルブルー夫人とわかり、さらに彼女が黒人のビリという愛人を持っていたことも判明。ビリも別の牛から死体で見つかったことからルブルー氏を怪しいと追いかけるが、彼も肥溜めで死体で発見される。さらにルブルー氏に愛人のカンパン夫人がいたことがわかるが、彼女も海岸で死体で発見される。

さらにビリの息子は好きになった娘に無視されて、銃を乱射して自殺。その娘は気に病むが、なんと自宅の豚に食われてしまう。全部で大人4人と子供2人が死ぬ。そのあいだに、醜悪な田舎の葬式や革命記念日やレストランの光景がはさまれる。

公開予定がないのですべて書いたが、憲兵や子供たちが怪しいと思うとすぐに死体が発見される展開で、見ていてどんどん肌寒くなる。あと疑われるのは、ルブルーの弟(カンカンの父)か、そのさらに下の知恵遅れの弟ダニーか、カンパン夫人の若い夫か。終盤に隊長が「あいつだぜ」とダニーを指さして「今のは冗談さ」と言うが、本当に冗談にならない。

B級的なジャンル映画を徹底的なリアリズムで見せ、サスペンスとユーモアを混交させた驚異的な映画だ。フランスの田舎のリアリズムといえばクロード・シャブロルの映画を思い出すが、彼が見たら嫉妬したのではないか。

ところでそこの海は映画でCote d'Opale=「オパール海岸」と呼ばれていた。ここは1984年に行ったことがあった。全く同じ透き通るような薄い青の海を思い出した。


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