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2019年1月10日 (木)

ようやく『伯爵夫人』を読む

2年ほど前に蓮實重彦氏の『伯爵夫人』が三島由紀夫賞を取り、その記者会見が話題になった時、私は6カ月のパリ滞在中だった。WEBRONZAに蓮實発言をめぐる文章までパリから送ったが、件の小説は読んでいなかった。

最近、どこかで新潮文庫で出ていると聞いて、すぐ買った。読んでみると、これがかなり衝撃の内容だった。日米開戦直前、帝大進学を前にした旧制高校の学生が性にめざめる数日が、何とも卑猥な直接的表現で書かれている。

主人公の二朗がアメリカ映画を見た後に「伯爵夫人」に声を掛けられるという、いかにも映画的な場面から映画は始まる。この夫人は実は二朗の家に住んでいるが、爵位を金で買ったとも祖父の妾の子とも言われている。

警官が来たので、夫人は二朗に抱きつく格好をするように命じるが、二朗はそこで射精してしまう。警官が去った後に夫人は「「あたいの熟れたまんこに滑りこませようとする気概もみなぎらせぬまんま、魔羅のさきからどばどばと精を漏らしてしまうとは、お前さん、いったいぜんたい、どんな了見をしているのですか」

小説全体がこうした卑猥な言葉の連続で、とてもここで書き写せないほど。「熟れたまんこ」という表現はたぶん20回は出てくる。そのうえ、叙述には主人公が頭の中で思いめぐらす内容や、友人の話などが幾重にも入り交じり、読んでいてこれが何の話かわからなくなる。

さらに、「巴丁巴丁(バデンバーデン)での季節外れの湯治だの、古馬(コモ)湖畔での短い夏の記憶だの佛領印度支那のホテルの冷房のきいたボールルームでの舞踏会だの」といったやたらに漢字を使った土地名や言い回しが出てくる。そして小津安二郎やシュトロハイムといった監督やその作品名も。

さほど長くないので2、3時間で読めるが、結局は二朗青年の妄想の一瞬のできごとのようだ。最後に「思いきり眠ってしまったものだと呆れながらふと夕刊に目をやると、「帝國・米英に宣戰を布告す」の文字がその一面に踊っている」

プルーストのような「意識の流れ」を昭和初期の爛熟したモダニズムのなかで、映画的に語ってみる、そんな壮大な冗談に似た試みのようだ。読んでいて、なぜか現実の蓮實さんの姿が浮かんでくるから不思議だ。「色艶にとどまらず、そのスマートな長さといい、ずんぐりしていながら無駄のない太さといい、天下一品というほかないものでございます」というところまで。

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