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2019年1月 5日 (土)

『彼が愛したケーキ職人』の静かさ

また、ちょっといい映画を見た。イスラエル映画の『彼が愛したケーキ職人』で、何とも静かな進行が見ていて心地よい。そして終盤に向けて、少しずつ盛り上がっていった。

トーマスはベルリンのカフェでお菓子を作る男で、そこにイスラエルから出張で来た客のオーレンと仲良くなり、関係を持つ。オーレンにはエルサレムに妻子があったが、帰国時に事故にあって亡くなってしまう。

そこまでが10分ほどで語られ、あとはエルサレムにやってきたトーマスがオーレンの妻アナトの経営するカフェに通い、手伝い始める過程が実に淡々と描かれる。トーマスは何も語らない。カフェでのバイトを申し出て受け入れられ、だんだんとクッキーやケーキを作り始める。

トーマスもアナトも、オーレンの生きた軌跡をそれぞれのやり方で静かに探す。トーマスは最後まで自分から真実は語らないし、あえてオーレンやその息子に近づこうとはしない。しかしトーマスが作るお菓子は大人気になり、アナトも菓子作りを学ぶうちに二人は近づいてしまう。

何よりトーマスの落ち着いた毎日がいい。感情はすべて内に秘め、アナトが彼に自然に惹かれるまでは距離を保つ。ユダヤ人の料理の規則などを持ち出すオーレンの兄もおもしろいが、息子オーレンのことを語る母のすべてをわかったような笑顔はなんだろうか。トーマスとまるで母子のように見つめあう。国や宗教、習慣、性差を超えて、大きな「愛」があちこちに溢れ出す。

トーマス役の俳優ティム・カルクオフは、本当にケーキ職人がぴったりの白く柔らかそうなほっぺと肌。彼が小麦粉をこねるシーンが見ていて気持ちがいいし、できたケーキは本当においしそう。食べたアナトの表情が変わってゆくのがよくわかる。

監督のオフィル・ラウル・グレイツァの初長編というが、この抑制の効いた演出とドラマ構成はなかなかの腕前。各地の映画祭で喝采を浴びたというのもわかる。目立つような演出はないから、批評家よりも観客が選びそうな映画だろう。見終わると、ちょっといい気分になれた。

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