« 『たちあがる女』は元気が出る映画 | トップページ | 『家族のレシピ』の快さ »

2019年2月 9日 (土)

入試の『徒然草』に考える

何度かここに書いたように、2月、3月は大学の教師にとって「つらい」時期。期末試験や採点もあるが、何といっても入試が一番。試験官の日は、ロボットになった気分で約3時間ひたすら立ちつくす。

スマホはもちろんのこと、本を読むことも禁止されている。そこで私がやるのは、監視の合間にこのブログのネタを考えること。ある日何も思いつかなくて、ふと国語の問題を見た。それは『徒然草』の一節だったが、以下の文章に心を掴まれた。

「若きほどは、諸事につけて、身を立て、大きなる道をも成じ、能をも附き、学問をもせんと、行末久しくあらます事ども心には懸けながら、世を長閑に思ひて打ち怠りつつ、先づ、差し当りたる、目の前の事のみに紛れて、月日を送れば、事々成す事なくして、身は老いぬ。終に、物の上手にもならず、思ひしやうに身をも待たず、悔ゆれども取り返さるる齢ならねば、走りて坂を下る輪の如くに衰へ行く」

簡単に意訳すると、以下のような意味だろう。若い頃は大きな夢を抱いているが 、まだ先は長いと差し当たり目の前のことをこなしているうちに、老いてしまう。そして、走って坂を下る輪のように、衰えてしまう。

「走りて坂を下る輪の如くに」という例えが実に映像的でリアル。馬車からはずれた輪が一つ、坂道をころころと転がってゆくさまが、目に見えるよう。老いて衰えるのは、かくも早い。

私はすぐに母のことを考えた。8月には元気に歩いていたのに、10月に脳梗塞で倒れて手足が自由に動かなくなった。その後2回脳梗塞になり、12月初めには目も開かなかった。それから人工透析で立ち直って目が開き、1月初めにはたまに言葉を発するようになった。しかし、1月末に様態が急変してすぐに亡くなった。

私は試験問題を読みながら、たぶん1、2分ボンヤリしていた。すると同僚の試験官が、「大丈夫ですか」と近づいてきた。たぶんフラフラしたので、気分が悪くなったと思われたのかもしれない。

試験が終わって、母はともかくこの文章で考えるべきは自分のことだと思った。目の前のことをこなしているうちに何もしないで老いてゆくとは、まさに今の自分。

さきほど書いた『徒然草』は、後でネットで「徒然草 坂を下る輪」と検索したら第188段が出て来たのでコピペしたもの。昔なら本を最初から読み返したはず。便利がいいのかわからない。

それにしても奥深いのは『徒然草』。「第一の事を案じ定めて、その外は思ひ捨てて、一事を励むべし」

|

« 『たちあがる女』は元気が出る映画 | トップページ | 『家族のレシピ』の快さ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 入試の『徒然草』に考える:

« 『たちあがる女』は元気が出る映画 | トップページ | 『家族のレシピ』の快さ »