ブルーノ・ガンツが亡くなった
昨晩酔って帰ってきたら、ブルーノ・ガンツが亡くなったというニュースがネットで流れていた。少し前の映画ファンなら、ロングランをしたヴィム・ヴェンダースの『ベルリン 天使の詩』の主人公として覚えているだろう。スイス生まれで英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語に堪能なので、欧州各地の映画に出ていた。
一度話したことがある。2005年の最初の「ドイツ映画祭」で、『ヒトラー 最期の12日間』をプレミア上映した時に来日した。私は司会で映画の前に一言話してもらい、上映後に観客とのQ&Aに参加してもらう段取りだった。
彼は上映の始まる20分頃前にジャケットをはおったラフな姿でやってきた。上映前には「上映後にあらゆる質問に答えますから」と言って、ほとんど話さなかった。上映は18時からで、映画は155分。私はその2時間半の間に彼と食事に行くつもりだった。寿司ならどこ、ワインバーならどこと頭の中を巡らせていた。
挨拶が終わって「何か食べに行きますか」と言うと「もし公式な夕食会でなければ、私はホテルに戻って本を読みたい」「実は、私と打ち合わせを兼ねてお好きなものを食べてもらうつもりでした」「食事には早いので、ホテルに行きます。打ち合わせは直前で大丈夫です」
彼は自分の意志で行くのだからと、タクシーチケットを受け取らなかった。タクシー乗り場に連れて行って「キャピトルホテル東急」とホテル名を伝えた。「必ず10分前に戻ってきてください」と念を押して、万一のために私の携帯の番号を書いたメモを渡した。映画が始まって本当に戻ってくるか不安だったが、15分前には一人で控室にやってきた。
終わってからどこかに行くかと聞くと、「軽く食べてきたのでホテルに帰ります」。私が送ろうとしても「遅くなるといけないから」と1人でタクシーに乗った。
さて、Q&Aの中身はほとんど憶えていない。観客から「ヒトラーを演じる時に気をつけたことは」と聞かれて「ものまねにならないように、精神的な部分だけを考えて演じた」という意味のことを言ったはず。20分くらいで質問が途切れたので、終わりにした。
この日は本当に緊張していた。ヴェンダースだけでなく、エリック・ロメール(『O侯爵夫人』)に始まって、ヴェルナー・ヘルツォーク(『ノスフェラトゥ』)、アラン・タネール(『白い町で』)、テオ・アンゲロプロス(『永遠と一日』)など、そうそうたる世界の映画作家と組んだ映画のことを考えたからだろう。
今思うと、緊張している私に気を使って、ホテルに帰ったのかもしれない。そんな思いやりが感じられる優しい表情と物腰だった。
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 飛行機のトラブル(2026.09.07)
- 美術と映画をめぐって(2026.08.26)
- 本を売る(2026.08.20)
- 人生の僥倖(2026.08.09)
- いつの間にかイタリア映画の専門家に(2026.08.07)
「映画」カテゴリの記事
- 『赤い砂漠』の音と色の強度(2026.09.03)
- 『アニキ・ボボ』のドゥロ河(2026.08.30)
- 美術と映画をめぐって(2026.08.26)
- 岩下志麻『同志として妻として』を読む(2026.08.24)
- 『私の血に流れる血』の不可解な魅力(2026.08.18)


コメント