とんでもない映画『岬の兄妹』
いや、とんでもないものを見た。片山慎三監督の初長編『岬の兄妹』のことである。全くノーマークだったが、金曜夕刊各紙で絶賛の評が並んだ。全く予備知識なしに劇場に行って、度肝を抜かれた。
『岬の兄妹』という題名から、何か牧歌的なものを想像していた。ところが障碍や性や貧困というヤバイ問題に直球で迫る、グロテスク・リアリズムの映画だった。
冒頭に、妹の真理子を探して、右足を引きずりながら歩く男が出てくる。まるで地震か何か起こったような荒れ狂う画面にたじろいだ。ようやく見つかると、知恵遅れの妹はある男と一緒にいた。家に帰って風呂に入る妹のポケットに1万円と下着に精液を見つけた兄は、怒り狂う。
兄は足のせいで、造船所をクビになる。2人は収入を断たれて、電気も止められる。せっぱつまって兄が思いついたのは、1時間1万円で妹を貸し出すことだった。トラックの運転手に断られたり、繁華街に行ってやくざに暴行されたりしながら、だんだんコツを覚える。妹にスカートをはかせ、化粧する。
客のなかには、妻を亡くした人の好さそうな老人、イジメにあった高校生、小人症の男などもいた。お金が入り、ハンバーガーとフライドポテトを2人で大量に食べる。妹はむしろ幸せそうだったが、その先にはさらなる苦難が待ち受けていた。
とにかく兄役の松浦祐也と妹役の和田光沙が、最初はドキュメンタリーかと思うようなリアルな演技を見せる。兄が高校生の顔に自分の糞をなでつけるなどグロテスクなシーンは多いが、時おりスローモーションを使ったり、引きの長回しで見せたりと、美的なセンスにも満ちている。
片足を引きずる男が知恵遅れの妹に売春をさせるというとんでもない内容を、真摯に正面からそして繊細な映像美で撮った超力作である。「日経」で宇田川幸洋さんが「この映画を見てしまうとふだんに見ている日本映画は、上手な、きれいな、おしばいにすぎないのだなあと思えてくる」と書いていたが、本当にその通り。
この監督はポン・ジュノと山下敦弘のもとで助監督をしたというが、この2人と同じくらい才能がありそうだ。今後に期待したい。必見。
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