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2019年3月30日 (土)

アニエス・ヴァルダが亡くなった

昨晩は飲み過ぎたので知らなかったが、今朝起きてスマホをいじり、アニエス・ヴァルダが亡くなったことを知った。もう90歳だから驚きもしないが、3年前のパリ滞在であまりに元気な彼女の姿を何度か見たので、何となく死なないような気がしていた。

最後に見たのは2016年4月20日で、レイモン・ドゥパルドン監督の新作「住民たち」Les habitantsの試写が20区の映画館であった時。上映開始間際に現れて、高名な評論家が席を譲ろうとしたのを覚えている。上映後のパーティでは至近距離で見て、スマホで写真も撮った(だから日付がわかる)。

その前は、4月10日のシネマテーク・フランセーズで、ジャック・ロジエの『トルチュ島の遭難者』(1974)というレアな映画を見に行った時。上映が終わり、監督のもとに声をかけに集まった人の群れの中に、彼女がいた。「ボンジュール、ジャック!元気?」と声をかけていた。

それから2000年頃に日本でも見た。今はなき栄光の映画会社、フランス映画社代表の柴田駿さんがフランスから勲章をもらった時の受勲式が横浜のフランス映画祭会場近くの船で開かれた。20人ほどの招かれた中に彼女がいて、日本の使い捨てカメラで写真を撮っていた。彼女の『冬の旅』を柴田さんが配給したからだろう。

考えてみたら、このいずれも誰かのためにやって来たので、自分の映画の上映などではなかった。それくらい、身軽というか、好奇心のおもむくままに、ひょいひょいと現れる行動力があったのだろう。彼女が監督した映画自体も、そうした思いつき的な軽さに満ちている。

去年日本でも公開された『顔たち、ところどころ』を見たら、その軽快さがわかると思う。若い写真家と二人でフランスを旅する話で、最後は写真家が会いたいというゴダールの家まで行ってしまう。

彼女の最初の長編『ラ・ポワント・クールト』(1955)を輸入盤DVDで見た感動についてはここに書いたから繰り返さないが、文字通りヌーヴェル・ヴァーグの最初の作品である。仏ルモンド紙の追悼記事を読んでいたらトリュフォーの『大人はわかってくれない』より4年、ゴダールの『勝手にしやがれ』より5年早いと書かれていたが、まさにヌーヴェル・ヴァーグが始まる前の映画。

南仏でパリから来た若い夫婦(夫は無名のフィリップ・ノワレ!)の倦怠を追いかけただけなのに、あのみずみずしさは何だろうか。人の仕草や表情を見せるだけの映画なのに、とんでもなく深い。超低予算で人間を追いかける彼女の映画とその生き方のすべてが詰まっていた。

ヴァルダについては後日もっと書きたい。とりあえずはフランスから取り寄せた短編集のDVDが手元にあるので、それを見ながら追悼する。

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