『僕たちのラストステージ』に泣く
4月19日公開の『僕たちのラストステージ』を試写で見た。監督のジョン・S・ベアードの映画は見たことがないけれど、ローレル&ハーディが主人公の映画と聞いて、妙に気になった。この2人組の喜劇役者の映画は、かつて留学していた頃のパリでよく上映していた。
当時の日本では、サイレントやトーキー初期の喜劇と言えばチャップリンくらいしか映画館やテレビで見られなかった。だからパリに行ってからはバスター・キートンやフランク・ロイドに夢中になった。そんななかにローリー&ハーディというコンビの映画も上映されていたので一度見に行った。作品名は憶えていないが、派手に走る回るキートンやロイドに比べるとさっぱりおもしろくなかった。
それなのに、パリでは人気だった。その後彼らの映画を見ることはなかったが、頭の奥のどこかで気になっていた。なぜあんなに人気があったのか、と。
今回『僕たちのラストステージ』を見て、その理由がよくわかった。彼らの芸は、キートンやロイドのように身体性に頼るものではなく、ちょっとした動作や仕草や目つきによるものだったのだ。だからまず欧米的な仕草のコードがわからないアジアの大学生にはピンとこない。
映画は最初に、1937年の彼らの絶頂期を見せる。監督のハル・ローチとの契約を止めようという勢いで、2人の間に小さな行き違いも起きる。そしてそれから16年後、中年になった2人はイギリスで公演のツアーをやる。あくまで再び映画を撮るためだが、雲行きはあやしい。
最初に彼らが泊まる地方のおんぼろなホテルが哀しい。そして劇場は小さく、まばらな観客。プロモーターと話し合って、あらゆるプロモーション活動をして、何とか人気を取り戻す。そして待望のロンドン公演は一流のライセウム劇場となり、2人の妻たちもアメリカからやって来る。
中年になって、何とか人気を取り戻そうとする姿が痛々しい。そしてロンドン公演の後の打ち上げで、2人は大喧嘩をしてしまう。それから先が何ともいい感じで、見ていて泣いてしまった。
2人を演じるスティーヴ・クーガンとジョン・C・ライリーが抜群だ。特に太ったハーディ役のジョン・C・ライリーは特殊メイクもあって本当にそっくりで、老いて体が自由にならない喜劇役者の悲哀を見せる。その2人の妻役やプロモーターなども的確な演技で、破綻がない。
実は映画自体にはあまり期待していなかったが、かなりの秀作だった。
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