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2019年3月28日 (木)

『まく子』の世界

鶴岡慧子監督の『まく子』を劇場で見た。言いたいことはよくわかるしそれなりにおもしろいけれど、どこか乗れない。こんな感じは経験したなと見た後に思ったが、昔見た大林宣彦監督の『転校生』『時をかける少女』などが、私にはそうだった。

絶賛する友人たちはいたが、私には響かない。要するに少年少女たちの抱くちょっと幻想めいた感覚というのが、私にはどうもわからないのかもしれない。私が小さい頃はもっと非文化的というかリアルな日々で、そんな呑気な夢は抱いていなかったのかも。

『まく子』は、田舎の温泉旅館の一人息子で小学5年生のサトシの日常を描く。不倫をしている父親(草彅剛)を筆頭に大人が嫌いで、子供のままでいたいと考えている。そこにやってきた「転校生」のコズエは、サトシの旅館で住み込みで働き始める女の娘で、背が高い美少女でちょっとヘン。サトシは最初は嫌がっていたが、次第に惹かれてゆく。

しばらくしてサトシはコズエから、母と宇宙からやってきたという話を聞く。そして彼女が去ってゆくまでを仲良く過ごす。その後にはまた別の娘がやって来る。温泉旅館という濃密な空間で揺れ動く繊細な少年の心が巧みに描かれている。まずひなびた温泉の感じがいいし、寡黙なサトシの表情がだんだんよくなってくる。

そして父親役の草彅剛が脱力感溢れる演技で、今までのイメージを打ち破る新境地を見せる。もはや彼もハンサムなだけの男を演じる必要がなくなったのだろう。料理人役の彼が、朝、息子に握るおにぎりは、湯気ほやほやで本当においしそう。

そしてコズエは去ってゆく。みんなで空を眺めて、まるでかぐや姫みたいだ。そのシーンも含めて、私の心はどこか冷めていた。

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