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2019年3月14日 (木)

『ヒトラー VS ピカソ』の見せる謎

4月19日公開の『ヒトラー VS ピカソ 失われた名画のゆくえ』を見た。クラウディオ・ポリというイタリアの監督のドキュメンタリーで、ナレーションはトニ・セルヴィッロでイタリア語。つまりはイタリアのテレビ用ドキュメントという感じだが、これがめっぽうおもしろい。

私は1991年のロサンジェルスのカウンティ・ミュージアムで「退廃芸術展」も見たし、その日本版の「芸術の危機――ヒトラーと退廃美術」展も1995年に神奈川県立近代美術館で見ている。あるいは10年近く前にパリのユダヤ美術館で「ナチスに略奪された美術展」も見た。

つまりナチスと美術の関係についてはそれなりに知っていたつもりだったが、この映画で新たに知ったことがたくさんあった。一番は、1937年の「退廃美術展」が、同年の「大ドイツ芸術展」の1日後に同じミュンヘンの数百メートルそばではじまったこと。

「退廃芸術展」はヒトラーが「退廃」とみなした美術作家の作品を集めて晒しものにした展覧会。ベックマン、ノルデ、ディックスなどのドイツの画家のほか、ピカソ、ゴッホ、シャガール、カンディンスキー、リシツキー、マティスなど外国人画家も多かった。

ここで知ったのは、エミール・ノルデが反ユダヤ主義者でナチ党員だったにも関わらず、退廃芸術展に展示されたこと。あんな暗い悪魔的な絵を描く人がナチ党員だったなんて。

ナチスは占領したオランダやフランスなどから多くの美術品を略奪した。この映画では、略奪された画商などの子孫が何人も出てきて、現在も取り返しの裁判をしている様子を見せる。そこで知ったのはヒトラーのみならず、その片腕のゲーリングも各地の美術品の収集に熱心だったこと。

おもしろいのは、ピカソやマティスといった「退廃芸術」に選ばれた画家の作品もごっそり所有していたことだ。これは大きな矛盾だが、やはり作品の魅力はわかっていたのだろう。

ゲーリングはフェルメールが好きで『天文学者』を入手したことを喜び、贋作まで知らずに集めていたという。フェルメールは1980年代後半から世界的に有名になったと思っていたが、その頃からわかる人はわかっていたのか。

アメリカの「モニュメンツ・メン」という団体もおもしろい。連合軍がイタリアやドイツにある略奪美術品を救うべく組織した専門家グループという。これは最近ジョージ・クルーニー監督で映画化した『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014、原題は「モニュメンツ・メン」)もあるようなので、見てみたい。

そういえば、昔パリのオルセー美術館で美術展の交渉をしていた時に、「海外に出せない作品リスト」があった。その中には「ドイツから返還された略奪美術品」があって、持主が不明なものがオルセーに寄託されていた。

それにしても、権力者や金持ちはなぜ美術品を欲しがるのか、これは永遠の謎である。

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