『大学』を見る
フレデリック・ワイズマン監督の『大学』At Berkley(2013)を見た。これは2013年にトロント国際映画祭で見ていたが、面白いと思いながらも途中で出たもの。4時間4分と長いのに議論の場面ばかりで、日本語字幕なしでは内容が理解できなかったから。
見終わって、これはやはり『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(15)と並んで、最近のワイズマンの傑作だと思った。もちろん5月18日公開の『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(17)も去年ベネチアで見た「インディアナ州モンロヴィア」Monrovia, Indianaもすばらしいが、これらは短い時間で撮られたものだ。
だから映像エッセーのような軽みがあって見ていて心地よいが、『大学』は何倍もの時間をかけて撮影されており、その分訴えかけるものも強い。カルフォルニア大学バークレー校という一流大学がどんな問題を抱え、どんな日常を送っているかがよくわかる。
映画で一番の見どころは、何度も開かれる大学の幹部会議。例によってワイズマンの映画には説明がない。出てくる人物がどういう地位や立場なのかもあくまで映像を見ながら推測するしかない。日付もなければ、何の会議かも、何の授業かも明示されない。カメラはまるで透明人間のように、大学内の人々の日常に入り込む。
総長らしき男性がいい。ある会議では、ダメな論文は5分でわかるはずだから、教授の終身雇用(テニュア)を決定する会議には、学部長や学科長はダメな教員を推薦しないで欲しいと訴えかける。絶えずユーモアをはさみ微笑みながらも、話す内容はストレート。
カリフォルニア州からの助成金が減っていくのをどう対処するかの会議もある。かつては全予算の50%を超したのに、今では18%という。貧しい学生への奨学金は減らさず、職員もリストラしないと決めて、さまざまな経費や教員給与をカットする。しかし新たに設けた学内の託児所は続ける。
念頭にあるのは、ハーバードなどの裕福な私大に負けないこと。公立校は歴史を動かす力だと信じ、すぐれた教授が偉大な大学を作ると言う。総長は教育と研究のうち、公立校は教育を重視すべきだと考えて訴える。デモなどで学内に警察を入れることも議論される。
授業もよく出てくる。宇宙科学も、文学も、医学も、考古学も。10名程度のゼミもあれば、500人ほどの階段教室もある。黒人学生の差別をめぐるゼミなど、学生も命がけで議論している。アメリカの大学では、アジア人は黒人やラテン系に比べて優秀とされていることを初めて知った。
終盤の盛り上がりは、学生たちの学費値上げ反対デモ。10以上の項目を掲げて、夕方5時までに回答を求めて300人が図書館を占拠する。しかし大学側の対応は極めてクールで、結局学生全員が閉館の9時には退去した。
時おり、学内で掃除をしたり、道路工事に従事する黒人の姿も写る。あるいは公園で寝ている学生たちも。日本とは比較にならない広大なキャンパスで、公立で一流大学を維持するための努力が毎日行われている。ぜひ劇場公開して欲しい。すべての「大学」関係者必見の映画。
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