ゴダールの『イメージの本』に震える
ひょっとすると身についた習性なのかもしれないが、ジャン=リュック・ゴダール監督の新作を見るたびに、ほかの映画では味わえない震えを感じる。4月20日に公開の『イメージの本』は、新たに撮影したシーンは(たぶん)ない。
つまり、これまでに作られた映画や映像を編集して言葉を加えただけ。その意味では、前に作った『映画史』(88‐98)という4時間半の大作に近いかもしれない。あるいは『映画史』で使った映像の再利用もあるかもしれない。
今回は『映画史』よりもさらに白黒映像の濃淡の差をつけて、カラーの彩度をけばけばしいまでに高くしている。そこに響くのは88歳のゴダールのしゃがれた声。映画の音や会話が聞こえることもあれば、文学の朗読もある。映像も映画だけでなく、絵画があったり、写真があったり、本が写ったり。
さらにクラシックを中心とした音楽が断続的に加わる。一方で画面に字幕が出て来たり。さすがに私は大学で映画史を教えているから、古典作品の引用のいくつかはわかる。F・W・ムルナウ『最後の人』、ニコラス・レイ『大砂塵』、パゾリーニ『ソドムの市』、ロッセリーニ『戦火のかなた』など。
最初は憶えているが、だんだんどうでもよくなる。ゴダールの作品はいくつも出てくる。『ドイツ零年』とか『はなればなれに』とか。いずれにしてもどぎついほど黒みや色彩が強い。ゴダールの声は、どうも西洋文明の支配の歴史を非難しているらしい。後半はひたすらアラブの礼賛になる。フロベールの『サランボー』やデュマの『幸福なアラビア』を読みながら。
そして最後にはなぜか「希望」を口にする。そしてオフュルスの『快楽』でカンカン踊りの娘たちと陽気に踊る男たちのシーンが長めに流れる。まるで、90歳に近いゴダールが、世界はひどいが「希望」を持って踊るしかないよ、と諦め顔で苦笑いしているよう。
最初から最後まで瞬きもせずに、画面を見続けた。それだけの緊張を強いる映像の連続で、さすがゴダール。
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