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2019年4月10日 (水)

クリス・マルケルを見て

正直なところ、クリス・マルケルはよくわからない。昔、日本を扱った『サン・ソレイユ』(1982)を見て、途中で意識が飛んでしまった記憶がある。同じ頃のヴィム・ヴェンダースの『東京画』(85)と比べると、その差は歴然だ。日本をおもしろがってはいるが、普通の「愛」は感じない。

同じように、電車で眠る人々や原宿で踊る若者たちを見せても、マルケルはある距離を取って見せる感じ。今回の特集上映で初めて見たのは、『シベリアからの手紙』(1958)と『ある闘いの記述』(60)。一見すると、どちらも資本主義でない新しい国を訪れて撮ったものだが、それを理想化するわけでもない。

『シベリアからの手紙』は、シベリアに生きる人々を描く。『不思議なクミコ』のように個人を描くのではなく、少し離れた位置から描く。道路、お祭り、働く人々など。お祭りの歌は最大限に聞こえてくる。そこに膨大なナレーションが聞こえてくる。途中になぜかマンモスやトナカイのアニメが出てくるが、よくわからない。白黒のアーカイブ映像も挟み込まれる。

有名なのは同じ道路の場面が3回出てきて、ナレーションが違うこと。現体制を支持するようなナレーションと、逆に批判的なものと、その中間のもの。まるで監督本人がこのシベリアの状況をどう評価するかを、見る者にゆだねている感じ。「映像なんてナレーション次第さ」という冷めた見方かもしれない。

『ある闘いの記述』はそれに比べると、少し好意的な感じがする。まず、イスラエルの人々が生き生きしているし、希望に燃えて新しい生活を送っているように見える。私有財産を否定して、数百人でキブツという共同生活をする人々の姿は明るい。すべてを話し合いで決める。彼らは自分の白黒写真を見せられて、興味深そうに眺める。『シベリアからの手紙』のアニメと同様に、写真という映画とは別のメディアを入れることがマルケルらしいか。

これもまたナレーションがとうとうと聞こえる。終盤になって、難民の受け入れを拒否する欧州を非難する内容が入る。まるで現代のようだ。本当は欧米流の資本主義に逆らうために社会主義国に行くのだがそこで疑問を持つ、というのがマルケルの基本のようだ。

マルケルを見に行ったのは、その映画祭で13日(土)12:30の『A.K.』と『不思議なクミコ』の上映後にトークをするため。かなりびっくりの内容を準備中なので、ぜひご来場を。

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