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2019年4月18日 (木)

『荒野にて』の爽快な孤独

アンドリュー・ヘイ監督の『荒野にて』を劇場で見た。2017年のベネチアのコンペで見ており、かなり良かった記憶があるが、予告編を見てあまり覚えていなかったので見ることにした。

再見して、なぜベネチアでの印象が良かったのかわかった。最近には珍しく最初から最後までつらい映画なのに、主人公の孤独な毎日にどこか爽快な感じがあるから。

15歳のチャーリー(チャーリー・ブラマー)の父親は女好きで、母は離婚して去っていた。彼は学校にも行かず、知り合った馬主(スティーヴ・ブシェミ!)の手伝いを始める。そこで老いた馬のピートに出会うが、馬はメキシコに売り飛ばされる寸前。

一方で父親は喧嘩で死んだために、施設に入れられそうになる。チャーリーはそこから逃げ、さらに馬主を裏切って勝手に車と馬のピートを持ち逃げする。

レストランで無銭飲食して捕まるが見逃してもらい、故障した車を捨てて馬を連れて歩き出す。見つけた一軒家に入り、食事をご馳走になった後に逃げたり、食事の配給場所に行ったり。悲劇はさらに続く。目指すは昔優しかった叔母スージーの家。電話を重ねて居場所を探り出す。

自分を信じて、ひたすら逃げる。朝日や夕日の地平線が見える広大な自然を馬と歩き、さまざまな普通の人々に出会う。意外に親切な人は多いが、チャーリーはそれも裏切り、叔母の家を目指すのみ。この一途さが見ていて心地よく、主人公がぼろぼろになっても気分は悪くない。

現代の話とは思えないほど、北西部のアメリカは大いなる自然と人情に満ちていた。こんなアメリカは久しぶりに見た気がする。ちょうど大学で気の重いことがあった後で、すっきりいい気分になった。みんなに勧めたい1本。

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