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2019年4月 8日 (月)

『バイス』の描く悪人たち

アダム・マッケイ監督の『バイス』を劇場で見た。先日見た『記者たち』は、ブッシュ政権のイラク攻撃に対して戦う記者たちを「真面目に」描いた映画だったが、こちらはその政権内部の悪人たちを茶化しながら見せる。中心となるのは、クリスチャン・ベール演じるディック・チェイニー副大統領。

チェイニーの名前は聞いたことがあったが、いかにもおバカなブッシュ大統領と悪者然としたラムズフェルド国防長官や落ち着いた感じのパウエル国民長官に比べたら、存在は薄かった。しかし実はすべてを動かしていたのはチェイニーだったという話。

この監督は『マネー・ショート』で4人のトレーダーを中心にリーマン・ショックの裏側を面白可笑しく見せてくれたが、今回はみんなが知っているリアルな政治だし、描かれた政治家はみんな生きている。それなのに、徹底的にその悪を見せつける。

題名の『バイス』VICEはVice Presidentの「副」だが、「悪」の意味もある。映画はそれを「悪」と思わずに次々と実行してゆく人々の物語だ。チェイニーは高校の時から成績が悪いが、恋人のリン(エイミー・アダムス)の助けでイェール大学に入学する。飲酒で退学させられても、リンは支え続け、政治家になってからはあらゆるアドバイスを与える。

つまりブッシュを支えたのはチェイニーだが、それを操っているのは妻。選挙中に夫が心臓病で倒れても、妻が演説をして勝利に導く。チェイニーのかつての指導者で滅茶苦茶なラムズフェルドは、チェイニーの指名で国防長官をやり、チュイニーに権力を集中させる。ブッシュはすべてお任せ。

映画は細かい編集でニュースなどを盛り込みながら、誇張して描く。ある種プロパガンダ映画のようだが、ユーモアたっぷりなので気にならない。そのうえ、今回はチュイニーの家族第一主義が自然に盛り込まれているので、『マネー・ショート』と比べて心に響く部分もある。若いチェイニーがホワイトハウスに窓のない小部屋をもらった時に一番に妻に電話して「ぼくらはやった」We did it!と言うし、同性愛の娘を最後までかばう。

彼の家族愛と権力愛がそのまま結びつくところがこの映画のおもしろいところだが、それにしてもチェイニー役のクリスチャン・ベールを始めとして、ブッシュを演じるサム・ロックウェルやパウエル役のタイラー・ペリーのそっくりなことといったらない。

カーターやオバマなどは実際のニュース映像で出てくるが、「悪人たち」の本物の映像は写真すら使わない。たぶん訴えられないための方法なのかもしれないが、これほど現存の政治家をバカにした映画を作れるなんて本当にすばらしい。

監督はコメディアン出身でテレビのコメディ番組も手掛けていた。だからずいぶんテレビ的だが、これもまた21世紀の新しい映像だろう。

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