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2019年5月13日 (月)

『主戦場』の問題点

日系アメリカ人のミキ・デザキ監督のドキュメンタリー『主戦場』を劇場で見た。予告編を見て「見なくていいかな」と思っていたが、ある友人がフェイスブックで満員で入れなかったと書いていたので、妙に興味が湧いた。

いわゆる朝鮮人慰安婦問題をめぐるドキュメンタリーだが、普通ならばまず元慰安婦にカメラを向ける。ところがこの映画の大半はこの問題について語る政治家や運動家や学者や評論家の話が続く。誰の言うことが正しく、間違っているのか。

1つは慰安婦はお金をもらった売春婦だったと言う、櫻井よしこたちの右派=歴史修正主義者グループ。もう1つは慰安婦は性奴隷だったと言う吉見義明たちの歴史学者たち、そして第3のグループは国内やアメリカに少女像を建てる韓国人たち。

映画はこの3種類の人々の主張を目まぐるしい編集でテーマごとに見せる。ユーチューブの画像やニュース映像もどこかのHPのインタビューも足し、さらに監督自身による早口のナレーションと追い立てるような音楽を加える。

最初は面食らうが、終わりまで来ると誰が正しいかわかってくる。歴史修正主義者からは「フェミニズムを始めたのはブサイクな人たちなんですよ」とか「国家は謝罪しちゃいけないんですよ」とかとんでもない発言が飛び出し、アメリカ人ジャーナリストにお金を払って書かせた話まで出てくるから。そして彼らは「日本会議」をベースに安倍首相とつながる。

122分もあるのに、とにかく最後まで見せ切る。ただしこのパワフルな単純化に疑問も覚える。櫻井よしこや杉田水脈のような発言をそのまま安倍首相と重ねていいのか、それ以上に日本の冷静な歴史学者の考えが韓国のヒステリックな挺対協の人々と同じでいいのか。

一番の問題は本来なら日本の歴史学者の論理に近いはずのパク・ユハ(『帝国の慰安婦』著者)の発言があるのに、映画の中で完全に宙に浮いてしまったこと。日本は慰安婦問題を謝罪すべきだが、かといって20万人の少女が性奴隷になったという誤った主張に基づいて慰安婦像を各地建てるのはよくないという考えだ。根本には帝国主義があり、アジアの家父長制がある。

パンフレットを買って、この監督がユーチューバーとして多くの映像を作っていると読んで納得した。この単純化や盛り上げの技術はユーチューブのもの。何年も取材するのではなく、短期間でインタビューをして既存映像も足してパッチワークのように編集する新しいタイプのドキュメンタリーとも言えるが。

満員に近い観客には若者が多かった。彼らが慰安婦問題を考えるきっかけになればいいこと。

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