『ペトラは静かに対峙する』の迷宮世界
6月29日公開の『ペトラは静かに対峙する』を見た。監督はスペインの1970年生まれのハイメ・ロサレスで、長編6作品のうち5本がカンヌに出ているが日本での劇場公開は初めてという。
これが、とんでもない迷宮世界に入り込んだような映画だった。映画は最初に第2章から始まる。次に第3章が続き、その後に第1章。このような語りの順番の逆転が、後半にもう1回起こる。つまり観客は出だしから「その前に何が起こったのか」と怪しみながら見ることになる。
画家のペトラ(バルバラ・レニー)がある家にやってくる。有名な彫刻家・ジャウメ(ジョアン・ボテイ)の家で、ペトラは彼と仕事をするために来たとジャウメの妻マリサ(マリサ・パラデス)に言う。マリサは冷たいが、メイドのテレサは親切だ。
ある時テレサが突如自殺をする。その原因はジャウメの恐ろしい行動にあった。父が嫌いな息子ルカス(アレックス・ブレンデミュール)は家を出てゆく。ペトラは実はジャウメが自分の父親でないかと思ってそれを確認するために来たのだが、ジャウメは否定する。ジャウメの元を去ったペトラは、ルカスに電話をしたのがきっかけで再会し、そこから新たな負の物語が始まる。
おわかりの通り、このブログではいわゆる「ネタばれ」は気にしていない。そんなものはわかっていても、いい映画はおもしろいから。だがこの映画に関しては、ここに書くのはチラシに書いてある情報くらいに留めた。それほど展開を予想してそれが裏切られる楽しみに満ちているから。
カメラはゆるやかに登場人物を追って、乾いた荒野や森や部屋の中を移動する。画面の横から意外な人間が突然表れて、それが原因で複数の人間が唐突に死ぬので、カメラが動くだけで誰が出てくるのか、銃はどこにあるのかと怖くなる。
最初はサスペンスだらけでどこにたどり着くのかと思うけれど、終わってみるとピシリと収まっている。そのうえ、陰惨な物語なのにちゃんと心が温まるラストまでついている。見終わって思い出すと、その仕掛けの巧みさにうなる。まずは脚本の勝利だが、俳優の抑制された演技が見ごたえを増す。特に父親役の俳優は異質で怖い。
スタイリッシュな映像や音楽も含めて、その展開のうまさはイランのアスガー・ファルハディやロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフを思わせる。彼らの映画の持つローカルなリアリズムの強さに比べて、より知的迷宮を楽しませる感じだが。
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