ユスターシュに浸る:その(3)
ジャン・ユスターシュの初期中編『わるい仲間』(1963)と『サンタクロースの眼は青い』(1966)は1990年代にパリで出張の合間に見たはずだが、全く記憶にない。やはり初期作品は気になるので見に行った。
『わるい仲間』は、もてない30歳前後の男二人が、女を追いかけるだけの話。舞台はパリのピガール広場付近で、坂を登ってゆく女に声をかける。女友達とダンスに行く約束があるというので、男2人は道案内を申し出る。店に女友達はおらず、男2人はほかの店を案内する。女は離婚したばかり。
しかし店に着いて男2人がぐずぐずしているうちに、女は店にいた中年男からのダンスの誘いに乗る。女は嫌な男だったと戻ってくるが、また同じ男の誘いに乗る。男2人は彼女が置いて行った財布を見つけて、こっそり店を出る。そして走って逃げる。男2人はお金を分けて、数日後、また女を探す。
さえない男2人が何ともいい味を出している。1人は髪が薄くなり、それを気にしている。この映画は最初に「18歳以下禁止」と出たが、女の財布を盗んだのにそのまま罰せられないのがいけないのだろうか。
『サンタクロースの眼は青い』の方がずっと繊細だ。舞台はスペイン国境のナルボンヌ、主人公ダニエルはジャン=ピエール・レオ―が演じ、彼のナレーションも聞こえる。ダニエルはダッフルコートを買いたいと思い、あらゆる仕事を引き受ける。最後にやったのは、サンタクロースの着ぐるみで希望者と写真を撮ること。
そのあいだに、女性に声をかけるがうまくいかない。つきまとったり、触ったり。待ち合わせたある女にはキスまで行くが。ダニエルはこの街を出ようとつぶやく。寒い12月の夜に、もてない男たちが「売春宿へ!」と叫びながら歩く。こちらの映画はある種の青春への郷愁のようなものがあって、なかかな愛おしい。
そういえば、イタリア映画祭で見たヴァレリオ・ミエーリ監督の『憶えてる?』は郷愁に満ちた映画だった。男と女がパーティで出会い、それぞれの過去を思い出しながらなかよくなる。それぞれの頭に浮かんだことが映像になり、過去と現在がめまぐるしく入り交じる。2人は暮らし始めるが、途中から歯車が狂い始める。
1度見ただけではよくわからないが、それでも記憶をたどる旅は甘美だ。フランス映画にはたまにある思索的、美学的な野心に満ちた作品だが、イタリア映画では珍しい。この映画は劇場公開されると聞いたが、勇気ある配給会社!
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