« 紙ものの展覧会:トムとジェリーからウィーン分離派へ | トップページ | 神楽坂は中華の激戦区 »

2019年5月 7日 (火)

『嵐電』はすばらしい

5月24日公開の鈴木卓爾監督『嵐電』がすばらしかった。何がいいのかと言えば、「嵐電」と呼ばれる京都の市内電車が見ていて実に魅力的だった。正式には「京福電気鉄道嵐山本線」と言うことをこの映画で知った。

もちろん電車のドキュメンタリーではない。そこには3組の男女の謎めいた愛の物語がある。しかしそのすべての映像に、嵐電が写っている感じなのだ。

全体の狂言回し的な役割を果たすのが東京からやってきたノンフィクション作家の平岡衛星(井浦新)で、彼は嵐電をめぐる不思議な話を探っているが、それだけではなさそうだ。鎌倉の病気の妻から時々電話がかかってくる。そしてある時、突如妻が現れる。

私は最初、幽霊かと思った。ところがこの映画にはほかにも幽霊のような存在が何人も出てくる。青森から修学旅行でやってきた高校生の北門南天は、嵐電を8ミリで撮影する地元の高校生の子午線に恋をしてしまう。子午線は相手にしないが、南天はフィルムカメラを持って追い回す。修学旅行が終わるが、南天の愛は止まらない。

太秦撮影所近くの「キネマ・キッチン」で働く嘉子(大西礼芳)は、撮影所に弁当を届けた時に、少し名前の知られた俳優の譜雨(ふう)と知り合って、お互いに好意を抱く。譜雨は嘉子を嵐山に誘い、譜雨は京都弁の練習をする。彼らは何度か会うが、譜雨はいつの間にか東京に帰ってしまう。しかし、再会の時が訪れる。

つまり、なかなか親しくなれない、あるいは近くにいられないもどかしい男女の夢が、なぜかかなってしまう話である。そしてそれを取り持つのが嵐電で、さまざまな色彩や型の車両があり、駅ごとに違う風景を見せる。嘉子が譜雨と出会う帷子ノ辻駅、2人がキスをする御室駅、衛星が陣取る喫茶店のある太秦広隆寺駅などなど。

たった1両の嵐電も古めかしいが、8ミリフィルム、フィルムカメラ、喫茶店で開かれる昔の嵐電を撮った8ミリの上映会など、レトロに満ちている。こんな映画がカンヌに出たらいいなと思うのだが。観光地の写らない、日常の京都の美しさに満ちているから。

|

« 紙ものの展覧会:トムとジェリーからウィーン分離派へ | トップページ | 神楽坂は中華の激戦区 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 紙ものの展覧会:トムとジェリーからウィーン分離派へ | トップページ | 神楽坂は中華の激戦区 »