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2019年5月17日 (金)

展覧会をめぐる本:その(2)

高橋明也氏の『美術館の舞台裏』を読んでいて、「あっ!」と思ったことがある。「カタログ・レゾネ(作家の全作品総目録)についてですが、日本の作家に限ってはめったに作成されることはありません。雪舟や伊藤若冲にもカタログ・レゾネは存在しない」。専門家には自明のことかもしれないが、一度も考えたことがなかった。

「カタログ・レゾネ」は欧米の美術作家の大きな個展を企画する時に、最初に必要になる。全作品リストなので、まずこの作家にはどれだけの作品があるのかがすぐにわかる。そして各作品について、図版、正式タイトル、制作年、素材・技法、寸法、署名の有無、所蔵者、専門家による解題、作品記述などがある。

さらにその「来歴」も書いてある。ある作品は、どこの美術館か画廊やコレクターに所蔵されているのか。その作品はもともといつ作られて、いつ売られたものか。買ったのは誰で、その後いつ誰の手に渡ったのか。「展覧会歴」、つまりこれまでどの展覧会に出たのか。さらに「文献歴」、この作品について触れた文献はどれだけあるのか。

作家によるが、普通はカタログ・レゾネは何巻もある。それをめくりながら、1975年に日本の東京都美術館に貸し出したのならば、脈がありそうだ、などと考えることができる。ネットを調べていたら、今やいくつものカタログ・レゾネがネット上で英語で見られることがわかった。セザンヌのものなどは、驚異的なほど詳しい。

では美術館の所蔵作品はそのようなデータを公開しているのだろうかとふと思いついて、国立西洋美術館のHPを見て驚いた。所蔵作品についてこれらがすべて日本語と英語で掲載されていて、誰でもアクセスでき、検索もできる。ところが東京国立博物館を見ると、来歴や展覧会歴などは書かれていない。

やはり日本美術については、そういう探究が進んでいないのだろう。そういえば、高橋氏の本には「伝 雪舟」という表現も日本特有だと書かれていた。「特定できない作品については、あくまで個人名記載はせず、ぼやかした表現を選択する。所蔵者、関係者に対する一種の配慮でもあり、断定するのを避けて、とりあえず判断を保留しておくことも日本的な手法なのです」

日本はここでも世界に遅れをとっているのだろうか。

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