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2019年5月23日 (木)

展覧会をめぐる本:その(3)

展覧会について長い文章を書くための読書として、いわゆる「ランカイヤ」=「展覧会屋」の書いた回想録もいくつか読んだ。新聞社や企画会社や百貨店で長年展覧会に従事した人々のうち何人かは、その体験を本にしている。最初に読んだのは西澤寛著『展覧会プロデューサーのお仕事』。

この筆者の年齢は書かれていないが、内容から察するに私より5歳から10歳上だろうか。一度も会ったこともないどころか、名前も知らなかった。なぜなら彼の企画の多くは百貨店の展覧会で美術館は少ないから。さらに、絵や彫刻を見せる美術展ではなく、いわゆる美術以外のものを集めた展覧会が中心。

「僕が制作してきた展覧会のジャンルである挿絵・絵本原画・漫画、アニメーション、玩具、クラフト作品、映画、タレント等はサブカルチャーなんでしょう(僕は生活文化催事と呼んでいますが……)。本格的な美術品を展示している美術館・博物館とは異なり、会場の施設環境も駅弁とかファッションを販売してきた催事場といわれるスペースです。百貨店は、大半の作業を中一日で展示して美術展の会場に変えるマジックです」

この筆者は長い間西武百貨店で催事を担当し、現在は東映で展覧会のプロデュースをしている。映画会社の東映が展覧会を作っているというのは一般には知られていないが、美術業界内では有名だ。私がランカイ屋だった頃は、エジプトやイランなどの博物館に食い込んで宝物を持ってくる手腕に驚いていた。

さて百貨店の催事に戻ると、私はこれが苦手だった。三越や高島屋や伊勢丹の催事担当者の手慣れた脂ぎった感じがどうも好きになれなかったし、それ以上に百貨店で仕事をするのが、どうも落ち着かなかった。この筆者が書いているように、展覧会は一日で展示をする。というか閉店時に通用口から入って、夜中に壁を立ててそれから展示品を持ち込んで翌朝の開店までに完成させる。

私が唯一自分で企画した百貨店向け展覧会は2000年のオードリー・ヘップバーン展で、フィレンツェのフェラガモの博物館が仕立てた展覧会を日本橋三越を皮切りに全国で10を超す百貨店に巡回した。ほかは美術館とばかり仕事をしていた。

この本では筆者が手掛けたブータンやムーミンやリカちゃんや石原裕次郎など多種多様の展覧会を1~2ページでその経緯を紹介している。そこにコラムのような「教訓」があっておもしろい。

「夕刊の小さな記事でもひらめきと行動力があれば展覧会になりうる。休みの日も飲み会の席でも、いつも何か展覧会のできるネタがないかさがしている」

「女性が共感するライフスタイルを見つけることが、展覧会に通じる。平日の展覧会に来れるのは、50歳以上の男女と高校生以上の女性が大半である」

「展覧会の着地数と企画数は、業界で千三(3/1000)と言われている」

畏友、木下直之さんの最初の本は『美術という見世物』という題だったが、この本を読んで百貨店の催事は江戸時代の「見世物」の伝統を受け継いでいると思った。

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