『ラファエル前派の軌跡』展で学ぶ
6月9日まで三菱一号館美術館で開催の「ラファエル前派の軌跡」展を見た。この美術館ではラファエル前派の代表的画家である「バーン=ジョーンズ展」も見たし、その後の耽美な展開をたどった「ザ・ビューティフル」展も見たので、最初は見るのをどうしようかと考えていた。
結論から言うと、見てよかった。なぜかというと、展覧会名に「軌跡」と書かれている通り、19世紀英国のヴィクトリア朝時代を通じてのラファエル前派の流れが素人にもよくわかったから。
ラファエル前派の理論的支柱は美術評論家のジョン・ラスキンだということは知っていた。しかしラスキンが高く評価したターナーの絵が展覧会の冒頭に並んでいたのに驚いた。水彩が4点に油絵も1点ある。写実を超えて実験的な域に達したターナーの力量がよくわかる油絵だった。
さらにびっくりしたのは、ラスキン自身が描いたかなりの数のデッサンや水彩が並んでいたこと。主にヨーロッパの風景や教会が多いが、写真がない時代に外国の美術を研究するするには、自分で描いておくしかなかったのだろう。それが画家として通用するくらいうまい。
1848年に20歳前後若者たちが「ラファエル前派同盟」を作る。いわゆる英国美人を正面から描くダンテ・ゲイブリエル・ロセッティやジョン・エヴァレット・ミレイのわかりやすい絵が登場する。彼らはラスキンに高く評価された。自然回帰と装飾性に包まれた美女たちは、エドワード・バーン=ジョーンズに至って神話性や文学性を増す。
バーン=ジョーンズと同時期に、装飾そのものを作品としたウィリアムス・モリスが活躍する。いわゆるアーツ・アンド・クラフツ運動で、ここに至ってラファエル以降の西洋美術を解体する試みは頂点に達する。
ターナー、ロセッティやミレイ、バーン=ジョーンズ、ウィリアム・モリスがラスキンの星のもとに順番に並んでいて、大変よくわかりました、という感じ。国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン」展は19世紀のウィーンの美術の流れを文化史的に追っているが、それとの比較もおもしろい。例えばウィリアム・モリスはウィーンの世紀末建築家オットー・ワーグナーと近いのではないか。
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