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2019年5月15日 (水)

ギョーム・ブラックの描く夏の日

夏の始まる頃に見るのにピッタリなフランス映画の秀作を見た。6月8日から公開の『7月の物語』で、監督は『女っ気なし』や『やさしい人』のギョーム・ブラック。この監督の映画はこれまでヴァンサン・マケーニュという禿げた30代の俳優がダメ男を演じていたが、今度は国立演劇学校の学生たちと撮ったという。

『7月の物語』は、2部に分かれている。共通点は、7月のパリで若い女性2人が恋をするという設定。第1部は、職場(衣服の販売?)の同僚のミレナとリュシーが日曜日にパリ郊外のセルジー=ポントワーズに遊びに行く話。

ミレナはそこのレジャーセンターで働くジャンに声をかけられてついてゆく。森の中で語るうちに2人は中学の同級生であるとわかる。ミレナはジャンに迫られるが応じない。一方、リュシーは別の場所でフェンシングの練習をする青年と出会う。日が暮れて、2人の女性は仲良く電車で帰る。

第2部は7月14日の革命記念日。翌日の帰国を前に、ノルウェー人のハンネは記念のパレードを見ているうちにロマンに声を掛けられて、夕方に会う約束をする。ハンネが住むパリ国際大学都市のノルウェー館にロマンがやってくると、そこに住むイタリア人のアンドレアは嫉妬して喧嘩を売る。けがをしたロマンの応急処置に救護班のシパンがやってくるが、ハンネの女友達のサロメはシパンを気に入ってしまう。

それぞれに、ナンパをする身勝手な男と女性同士の猛烈な嫉妬が出てくる。しかし表向きはパリの爽やかな夏の光の下で、何も起こらなかったように進む。そして最後に小さな別れがある。まるで宝物のような小品で、いまどきこんな自然で繊細なドラマが作れるとは奇跡のよう。個人的にはパリ国際大学都市が懐かしかった。私は84年夏から1年間そこのアメリカ館に住んだ。7月末の去る頃の爽やかで悲しい気分が蘇った。

『7月の物語』は71分で、これと同時上映される同じ監督の38分のドキュメンタリーが『勇者たちの休息』。こちらは定年退職後に自転車乗りを始め、スイスからイタリアに向かう「大アルプス・ルート」を走り終えて南仏に着いた男を追う。孤独な男たちが静かな幸せを感じている姿がいい。カメラは彼らが走る様子も見せるが、同じルートを走る派手な「ツール・ド・フランス」の映像も時おり混じる。

主に出てくるのは元高校の化学の教師だが、ふだん目にすることのない、普通のフランス人の淡々とした日常が心を打つ。こちらも7月の話で、フランスの夏を味わうのにぴったり。もちろんロメールの映画を思い浮かべるが、3年前に住んだアパートの近くのアラゴー大通りの並木の緑も脳裏に蘇った。

そういえば、試写に蓮實重彦氏がいらしていたのにびっくり。思わず「上の映画館で講演ですか?」と聞くと、「ギョーム・ブラックの新作を見に来ました」とのこと。黒沢清の新作『旅のおわり、世界のはじまり』がすばらしいとも聞いた。

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