『アメリカン・アニマルズ』の作戦勝ち
バート・レイトン監督の初長編劇映画『アメリカン・アニマルズ』を劇場で見た。予告編では『レザボア・ドッグス』や『オーシャンズ11』の題名を比較に出し、大学生4人組の強盗事件の過程をたっぷり見せる感じだったので、これは行かねばと思った。
最初に「事実に基づく物語」This is based on a true storyと出て、not(ではない)と出る。そして「事実の物語」This is a true storyに代わる。確かに映画が始まってしばらくすると、実際に犯罪を起こした4人の15年後の姿が出てくる。つまり犯罪ドラマとして俳優が演じて現在進行形で進む途中で、関わった4人がその時の様子などをかわるがわるコメントする。
だから見ている観客は、彼らがその後無事に生きて生活していることを知っている。しかし映画では始まったばかりの犯罪がどう展開するかはわからない。犯罪ものでドラマとドキュメンタリーの混在はかなり珍しいのではないか。普通は実際の人物の写真は映画の終わりに出ても、この映画のように映画の途中で何度もカメラの前でとうとうと話すことはない。
犯罪者4人全員を15年後にカメラの前でたっぷり話させた時点で、既にドキュメンタリーとしては成功だ。そこに役者の演じるフィクションを加えることで、まるで『羅生門』のようになってくる。実際に細部において本物の4人の話す記憶は微妙に違っているのだから。
彼らの犯罪は、大学の図書館から12億円相当の貴重書を盗み出すこと。見ていると準備はいい加減だし、当日もミスばかりで見ていて情けないほど。それでもそこに妙なリアリティがあるのは演出の巧みさだろう。実際の犯罪なんてこんな感じかなとも思ってしまう。
「このままではダメだ」「何ものかになりたい」というのが若者4人の動機だろうが、この気持ちは60歳目前の私にはもうわからない。アメリカの地方都市というのがポイントかもしれないが、劇場には若者が多かったので、日本でも今やこの「閉塞感」は通用するのかもしれない。
私はむしろ、1本の映画が世界に出るというのは、これほどのしたたかな企画力が必要なのだと思った。監督や脚本家やプロデューサーを目指す私の学生にぜひ見て欲しい。
個人的におもしろかったのは、貴重書を闇で売ろうとするとオークション・ハウスの鑑定が必要になること。彼らがクリスティーズに行くと、「来歴」provenanceを示す書類を求められる。最近、美術品の「来歴」の重要性について考えていたので、思わず膝を叩いた。それにしてもクリスティーズやサザビーズは、オークションにかけなくても美術品の売買でもはや不可欠なのだと思い至る。
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