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2019年5月 2日 (木)

ユスターシュに浸る:その(1)

突然ジャン・ユスターシュの全作品上映が始まって驚いている。彼の映画は『ママと娼婦』(1973)以外には、短編の『わるい仲間』、『サンタクロースの目は青い』、『不愉快な話』、『アリックスの写真』くらいしか見ていない。とりあえず未見のカラー長編『ぼくの小さな恋人たち』(74)を見た。

話はたわいない。高校に入る年になったダニエルは、それまで祖母と住んでいたボルドー近郊を離れて、母とその恋人ジョゼが住むスペイン国境のナルボンヌに移り住む。高校に行くつもりだったが、母に学校に行かずに働くように言われたダニエルは、ジョゼの弟の電気屋で働きながら、少しずつ女性を気にし始める。

本当にそれだけで、2時間3分。ダニエルは自分を偽ることなく、戸惑いながら、少しずつ女性に近づいてゆく。最初はボルドーの教会で少女を見て勃起するが行動には移さない。時々入るダニエルのナレーションがなければ、何が起こっているかさえよくわからない。

なにより、ジョゼを連れて現れる母を演じるイングリット・カーフェンが何とも艶めかしい。彼女がジョゼとキスをするだけで、ダニエルは狼狽する。ナルボンヌでは、電気屋の前で毎回違う男とキスをする女を見たり、映画館でエヴァ・ガードナー主演の『パンドラ』を見ながら近くの女性にキスをしたり。

次第に暇な時間にカフェでたむろすることを覚える。年上の友人たちと知り合い、気に入った女の後をついてゆく。年上の友人の真似をして、同世代の女の子に草原でキスをするが、それ以上は許してくれない。次の日曜に会う約束をするが、その日は祖母の家に帰らなければならない。祖母の家で旧友たちと再会する。

撮影がネストール・アルメンドロスということもあり、最初はロメール流の心理劇かと思った。しかしそこには心理も皮肉もなく、抑制された表現はむしろブレッソンさえ思わせる。主人公たちの心の動きをを見せずに事実だけを見せながらも、人間の真実を映し出す。アルメンドロスの濃いカラーは、1970年代の南仏の夏の日の光と風をじんわりと伝える。

ユスターシュがこんな古典的なスタイルの秀作を撮るとは。これは全部見ないと。

 

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