『平成史』を読んだわけ:その(1)
少し前に、佐藤優、片山杜秀両氏の対談集『平成史』を引用したが、この本を読んだのは「映画祭「映画と天皇」のことが出てるよ」と友人に聞いたからである。佐藤優さんには1年半前にこの映画祭のチラシにコメントをもらい、会場で上映後トークもお願いした。
もちろん佐藤氏にコンタクトしたのは学生で、私は会場で初めて会った。『平成史』に戻ると、「第七章 天皇は何と戦っていたのか」で佐藤氏はこの映画祭に触れる。上映した5、6本を彼が挙げると、片山氏は「映画の選び方がセンスいいですね」。
佐藤氏「そうなんです。これの倍くらいをリストアップして、絞り込んだそうです。でもこれだけまんべんなく様々な立ち位置の映画を揃えられたのは、学生たち自身がそこに特定の立場を感じていないからです。むしろ、学生たちは天皇に対してシンパシーを持っている。それはなぜか、ということを映画祭を通して、彼ら彼女ら自身がレビューしてみたかったようです」
そこには丁寧に脚注があり、「朝日新聞文化部出身で、現在は日大芸術学部教授の古賀太が映画ビジネスにまつわる授業の一環として、学生たちに企画させたという。佐藤いわく「映画を借りてきて上映するのは誰でもできる。だから企画書を作って、興行としてやれ、と古賀さんは学生たちに言ったらしい。それも利潤が出る形で。だから学生の私のオファーもしっかりしていた」。佐藤氏とはトーク後に学生と共に居酒屋に行って話したが、よく正確に記憶しているものだと感心した。
さて「自慢」はさておき、この本はあちこちに興味深い考察が出てくる。佐藤氏は元外務省職員の作家、片山氏は思想史が専門の慶大教授で音楽評論なども手掛けている。驚くのは2人とも政治、経済、文学、思想、芸術、映画、テレビ、事件、流行などあらゆることに通じていること。
平成の大きな変化として96年の小選挙区比例代表制があるが、佐藤は「資質がない変な政治家が大量に生み出されるようになってしまった」。片山は「政権交代が起こりやすい二大政党政治を目指した小沢一郎が小選挙区制を導入し、メディアや政治学者が旗を振った」。佐藤「歴史的に日本の社会党を引っ張った左派社民がいなくなってしまった。同時に土井たか子や辻元清美ら右派社民が台頭した」。
片山「二大保守政党制の根底には、政権交代で政治腐敗を一掃するという発想がある」。佐藤「腐敗を絶対に許さない空気は政治の世界だけではなく、社会全体に広がりました」「曖昧な存在や中間団体が排除され、法に縛られない掟の領域や慣習の世界を認めない窮屈な社会になってしまった」
確かに2000年前後には、私も小選挙区に期待していた。ところがこれが機能しなかった。政権交代はできたがもっとダメになり、自民に戻ってさらにおかしくなった。この本についてはもう一度触れたい。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『やなせたかしの生涯』を読む(2025.10.22)
- 今さら『名画を見る眼』を読む(2025.09.24)
- 『側近が見た昭和天皇』の天皇像(2025.09.05)
- 『アメリカの一番長い戦争』に考える(2025.08.28)
- 蓮池薫『日本人拉致』の衝撃(2025.07.08)


コメント