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2019年6月15日 (土)

「松方コレクション展」の静かな感動

「松方コレクション」といえば、上野の国立西洋美術館が所蔵する西洋美術の中核をなす所蔵品である。その西美で企画展として「松方コレクション展」を開くとはどういうことかと普通は思うだろう。いつも常設展で見られるのに、と。

そもそも国立西洋美術館にある「松方コレクション」は、戦前に松方幸次郎が収集した3000点を超す作品の2割もないようだ。大半は松方が経営していた川崎造船の破綻で売り立てられたり、ロンドンの倉庫で火事にあったり、フランスの美術館に留め置かれている。1959年に国立西洋美術館を作ってフランスから寄贈返還されたのは375点だったという。

国立西洋美術館はその後も機会を見つけて松方の旧蔵作品を購入しているが、今回の「松方コレクション展」はそれに加えて、内外のコレクターや美術館に買われた松方旧蔵作品や、重要なためにフランスに残された作品などを可能な限り一堂に集めたもの。

展覧会は「Ⅰ ロンドン1916-1918」という具合に、時代ごとに松方が購入した作品を並べている。おもしろいのは、いつ、だれから買ったのかを当時の資料を使って明示していることだ。画廊からが多いが、画家のモネ本人からだったり、ロダン美術館の学芸員経由だったり。その手紙や売立目録まで展示している。

去年になって松方が購入した作品を戦時期に保管していたロダン美術館から所蔵作品348点のガラス乾板写真が見つかったというが、その写真のいくつかも展示されている。今はほかの美術館の所蔵になる作品や行方の知れぬ作品もあるが、貴重な資料だ。

だからこの展覧会は、作品を楽しむ以上にそれぞれの作品の数奇な運命を想像することになる。本来松方の所蔵作品のはずだが作品の重要性ゆえにフランスに残されたゴッホの《アルルの寝室》やゴーガンの《扉のある静物》はオルセー美術館から、スーティンの《ページ・ボーイ》はポンピドゥ・センターから出品されている。これなどはもし松方の遺族が法的に訴えたらどうなるのだろうか。

そのほか今では大原美術館やブリジストン美術館、あるいは三井住友銀行などの所蔵もある。とにかく作品すべてに来歴があり、それをたどりながら見てゆくと、次第に静かな感動が沸き起こってくる。終わりに松方コレクションが59年に日本に帰還した時の横浜港の水揚げや作品チェックの映像があったが、見入ってしまった。

いつか西美がやるべきだった、開館60周年にふさわしい展覧会だろう。この展覧会には入りきれないので、常設展にも松方コレクションはある。ほかの作品を見ると、寄贈や購入年が書かれていて、それらの来歴を考えるのも楽しくなった。

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