『田園の守り人たち』:これこそ映画だ
7月6日公開のグザヴィエ・ボーヴォア監督『田園の守り人たち』を見た。第一次世界大戦中のフランスの田舎を舞台にした、一見地味な映画だ。ところが見ているとだんだんと、「これこそ映画だ」と言いたくなるほど、どこを切っても映画らしい魅力に満ちている。
1915年、未亡人のオルタンス(ナタリー・バイ)は、戦場に行った夫を待つ娘のソランジュ(ローラ・スメット)と共に働く。教師だった長男のコンスタンが休暇で帰国する。新たに雇ったフランシーヌ(イリス・ブリー)は働き者で、母娘の信頼を勝ち取る。
次男のジョルジュは一時帰国した時に、慎ましやかなフランシーヌに惹かれる。ソランジュの夫は帰国した時に、疲れた様子で「ドイツ兵も我々と一緒だ」と語る。
3人の男たちが次々と戦場から休暇で帰ってきて、また去ってゆく。それを迎える母オルタンスの張り裂けるような心が静かに画面に波打つ。馬車が走り、列車が動くだけで、泣きたくなる。極めつけは訃報。オルタンスは喪服を着た兄の姿に「誰?」と叫び、名前を聞いて崩れ落ちる。
もう1つの心の叫びはジョルジュとフランシーヌの悲恋。ジョルジュが最初に惹かれるのは、フランシーンが歌を歌う伸びやかな声だ。彼女が戦場に書く手紙にも、その声が響く。帰国中に二人が結ばれる時の、岩に這わせる2つの手。思い切ってフランシーヌはオルタンスに手紙を書くが、オルタンスは泣きながらそれを燃やす。
幸いなことに、ラストはフランシーヌの楽しそうな表情と、生き生きとした歌声で終わり、いい気分に浸ることができる。ひどい時代にじっと耐えて生きる女たちを淡々と描いた映画だが、カットの一つ一つに映画そのものが息づいている。例えばアメリカ兵と話すフランシーヌを見ながら、馬車で去ってゆくジョルジュをキャロリーヌ・シャンプチエのキャメラが長い移動撮影でとらえるシーンに、「これこそ映画だ」と思う。
ナタリー・バイの立ち姿がすばらしい。彼女の実の娘で初めて映画で娘役をやるというローラ・スメットも奥に秘めた感じがいい。そして何よりフランシーヌを演じる新人のイリス・ブリーの魅力といったら。帰ってくる寡黙な男たちもいいが、台詞のない村人たちの表情や仕草も絵になっている。時おり流れる音楽もたまらない。
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