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2019年6月14日 (金)

『エリカ38』の浅田美代子に震撼する

私の世代にとって、浅田美代子はかつてとびきりのアイドル「美代ちゃん」だった。同時期の南沙織などとは違って今も一応芸能活動をしているが、公開中の日比遊一監督『エリカ38』を見て震撼した。実際に60歳を少し過ぎた彼女のリアルが伝わって来たから。

映画は、投資詐欺で億単位のお金を集めてタイで若い愛人につぎ込んでいた60歳過ぎの女性、渡部聡子を浅田美代子が演じる。数年前に実際にあった詐欺事件がモデルで、プロデュースは最近亡くなった樹木希林という。

その経緯は「朝日」の石飛徳樹記者の記事に書かれていた。「2人は1970年代、TBSの水曜劇場「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」で共演して以来、半世紀近くの付き合いだった。つまり樹木さんは、浅田さんのことを知り尽くしていた。

「事件が話題になった時、希林さんに『美代ちゃんはこういう役をやったらいいのよ』と言われました。私って、フワーッとしたイメージでしょ? だから『そんな役、来ないわよ』と答えたんです」

 しばらく経って、樹木さんはプロデューサーや監督、スタッフを決めてきた。「そして『あんた、頑張りなさい』と。びっくりしました。こんなことしてくれる人、います? 涙が出ました」

浅田美代子が投資セミナーで途上国支援の目的だがお金も増えると説くシーンが何度か出てくるが、不気味で説得力がある。普通の人々が見事に騙されてゆく。詐欺の中心となる怪しい男(平岳大)や金持ちの議員や投資する男たちが、次々と彼女の魅力にはまるのが、なぜかよくわかる。タイの若い男が金目当てだけでなく好きになるのも理解できる。

私は実際に60代でこんな感じの女性に会ったことは何度かあるし、平岳大演じる詐欺師のような男も見たことがある。その「あるある」が詰まった映画だった。

かつてのカワイ子ちゃんアイドルが今や60を過ぎているが、その魅力をどこかに残している。しかし場面によってはただのおばさんにしか見えない。そんな60代の光と影がこの映画には込められている。

実は映画自体は見ていて詐欺の仕組みはよくわからないし、騙される人々もどこかテレビの再現ドラマ的なのだが、浅田美代子という存在そのものを映像化したこの作品として後々まで残るだろう。私の世代は必見。

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