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2019年6月 2日 (日)

『日本統治下の朝鮮シネマ群像』の衝撃:その(1)

出たばかりの下川正晴著『日本統治下の朝鮮シネマ群像 《戦争と近代の同時代史》』を読んだ。下川さんは昨年末に私のゼミ学生が企画した映画祭「朝鮮半島と私たち」に観客として来られて、声をかけられた。すぐに意気投合して飲みに行ったが、戦前の朝鮮映画の知識に圧倒された記憶がある。

もともと日本統治下の朝鮮映画は存在しなかった。私が1996年に約100本の韓国映画を集めて韓国映画祭を開催した時は、1946年の『自由万歳』(崔寅奎 チェ・インギュ監督)から始まった。ある意味で日本統治下で作られた映画は、存在しない方が政治的にも好都合だった。あれは「親日」(韓国では今でも日本に従って韓国を裏切った人を指す悪い意味らしい)による映画だから。

ところが2005年になって北京の中国電影資料院から、旧満州にあった日本統治下の朝鮮映画が続々と出てきた。韓国映像資料院はそれらを入手して復元したが、その数は15本に及ぶ。今ではDVD化され、一部はネットで見ることができる。私もDVDで見たし、学生の映画祭では韓国映像資料院からデジタル復元版DCPを借りて『授業料』(崔寅奎監督、1940年)を上映した。

下川氏の本は、これらの映像を分析した日本で初めての本だ。さすがに15本全部に触れるのではなく、主として『望郷の決死隊』(今井正監督、1943年)、『授業料』、『家なき天使』(崔寅奎監督、1941年)、『半島の春』(李炳逸イ・ビョンイル監督、1941年)の4本を中心に分析している。

なぜ今井正の『望郷の決死隊』かと言えば、この映画には韓国側のスタッフが崔寅奎を始めとして数多く関わっており、キャストも崔寅奎の妻の金信哉(キム・シンジェ)など多くの朝鮮人俳優が参加したから。いわば日朝合作に近い。もちろんこの映画は東宝制作で日本で普通にDVDが出ている。

下川氏は毎日新聞の元ソウル支局長で、その後は韓国外語大学や大分県立芸術文化短期大学で教えており、韓国語ができる。映画史の研究者ではないが、この本は日本と韓国の当時の新聞、雑誌、公文書などを調査し、主として朝鮮映画に関わった両国の映画人に焦点を当てている。その結果、今まで誰もわからなかった映画の細部や人物たちの謎が解明されている。

前置きが長くなったが、中身は後日書く。

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